フレドリック・ブラウンSF短編全集3:最後の火星人を読む

しばらく前から馬場秀和さんのブログで気にしていた全集です。

タイミングがあったので図書館で3を借りてきました。別に特別にこの巻をということではなく、借りるタイミングで新入荷だったからです。

借りて驚きましたが創元叢書のようなソフトカバーでなく、立派なハードカバーで装丁もおしゃれ。これは所有欲を刺激する全集ですね。

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ブラウンは、40年代から50年代初めにアメリカのSF雑誌全盛期を支えた短編作家の一人です。のちのビッグ3のような本格長編型ではありませんが、「火星人ゴーホーム」や「発狂した宇宙」などはクラシックと呼ばれる長編です。

本巻を読んだ印象として、時代的なこともありますが、第三次世界大戦の重圧の中で暮らしていたことが良くわかります。その警鐘、対策、意外な結末などなど、SFならではの様々な洞察が見受けられます。

「存在の檻」

精神生命体が戦死した兵士の体内にトラップされてしまい独裁者になるという話し。

「最後の火星人」

酒場に現れた火星人だと自称する酔っ払い。これ本当に火星人だったという人を食った話し。

「地獄のハネムーン」

地球上で生まれてくるのが女の子だけになってしまった。そこで、米ロは男女の宇宙飛行士を月面に送り込んで月面での妊娠を試すことにという奇想天外な話し。

「星ネズミふたたび」

1巻収録の「星ネズミ」の続編。このために河出文庫の「星ネズミ」を借り足しました。

博士がネズミを宇宙飛行させて予備実験しようとするのだが、その結果、ネズミは知能を獲得して地球に帰還した。だが、しかし。という話しの二作目。

「六本足の催眠術師」

近づいてきた敵に自分に関する記憶を失わせるという能力を持つ六本足の泥亀をどうやって捕まえるかという話し。

「選ばれた男」

酒場で酒代を他の客にせびっている酔っ払いが世界を救ってしまうというブラウンらしい一作。

「漫画家」

日本で言う漫画家と違って、投稿ギャグを一コマ漫画にして新聞社に送るというのがアメリカの漫画家。星新一の「進化した猿たち」では星さんが本分野の大変な識者であることが判る。ここではBEMのギャグを描いたらBEMに馬鹿受けで招待されてしまう。

「ドーム」

核戦争を生き残れる力場の中で一人暮らす男。核戦争勃発前夜にスイッチを入れて逃げ込んだ。だが、スイッチを切ると死んでしまうかもと思いつつ、外で何が起こっているか判らないという不安に苛まれる。

「スポンサーからひとこと」

ある日、世界中のラジオで、「ここで、スポンサーからひと言、戦え」というメッセージがそれぞれの国の8時半に流れた。どうしてそんなことができるのか。言われた通り核戦争の勝者となるべく先制攻撃するのか?

「賭事士」

水星に観測任務で赴いた男は、賭け事好きでテレパシーを使えるエイリアンに拉致されてしまう。生き残るために彼らにポーカーを教え、その醍醐味はテレパシーを使わない状態でないと味わえないと説明して思考を読まれないようにして駆け引きを始める。

「処刑人」

ヴォクトを思わせる冒険SF。本集中で一番長い60ページもある。どちらについても、ブラウンらしくないと言えるが、こういうものも書いていたというのがブラウンの抽斗の多い所。

なんでもコピーできる機械を使って火星移民を進めるが、コピーされた人間は冷酷非情になってしまう。このため火星との戦争状態に陥っているが、中立地域である金星で地球と火星のスパイが地球最大の危機を巡って争う。