○海の鎖を読む

未来の文学叢書、最後の一冊です。図書館。

伊藤典夫さんの編訳アンソロジー

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「擬態」

アラン・ナースです。「焦熱面横断」の人なのですね。

「影が行く」で発明された人間そっくりのエイリアンの潜入ものです。

ナースは医学畑の人だそうで、かなり専門的な描写が手厚く描かれています。少々、専門的に過ぎて、解説を読まないと、どうやってエイリアンを識別したか判りません。それを別にすれば読み応えがあって良い作品です。

「神々の贈り物」

レイモンド・ジョーンズ。聞いたことがない人です。

大学時代の鼻持ちならないライヴァルだった軍人に、突如として呼ばれてなんとしても来てくれと言われる主人公の科学者。「あなたの人生の物語」と同じ系列の宇宙から来た使節とコンタクトする話しです。

ちょっと雑然とした書きぶりでスッキリと読み終われませんでした。

キングコング墜ちて後」

フィリップ・ホセ・ファーマーです。

キングコングが実話だと思っている子供に、お話しをする当時の関係者という切口。

キングコング騒動がどういうものだったかをシニカルに描いています。もちろんキングコングは実話ではありません。

キルゴア・トラウトの話しもそうですが、ここら辺の「ファーマーの人の悪いユーモア」が筆者には良く理解できません‥(^_^;

「地を統べるもの」

Mジョン・ハリスン。

巨大昆虫型の神が降臨した後の世界。イギリス中南部にある高速道路を冒険する話しです。昆虫生物の神が、巨大な人間の部品を夜中に運んでいるという異形の世界です。

意外な程に読ませてくれるのですが、で、結局なんだったのかは語られません。

「最後のジェリー・フェイギン・ショー」

ジェリー・フェイギンというバラエティ王のショーに、宇宙から来た使節がゲストとして登場する話しです。このゲストが長年にわたって地球の電波を盗聴してバラエティを研究していて、途中から視聴者のウケを攫っていきフェイギン・ショーを終了に追い込み、自分が変わって番組を持つという話しです。

なんとなくスラップスティックRPGの「レレレ」を思わせるような話しです。

集中で一番楽しい作品です。

ジョン・モレッシー。聞いたことありません。伊藤さんも、この作品でしか知らないと言いますから、かなりのマイナー。

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フェルミと冬」

フレデリック・ポールです。

JFK空港で飛行機に乗ろうとしていると、TVで「第三次世界大戦、核戦争が始まってしまった」というニュースが流れます。

主人公の宇宙学者は、急病の少年を助け、親子だと誤認された結果、アイスランド行の飛行機に載せてもらうことができ、奇跡的に生き残ります。しかし、核戦争後の粉塵による集中豪雨、その後の氷河期、飢餓による地獄を生き抜いていくという殺伐とした話しです。

最後に「三体Ⅱ」でも登場したフェルミパラドックスが登場し、その答えは一定以上のテクノロジーを持った知的生物は戦争によって自滅するから出会えないのではないかという救いのない推測が語られます。

核戦争ものの短編は往年は星の数ほどありましたが、その中でも筆の冴えはトップクラスの一篇です。ポールって、変身以後は本当に素晴らしい作家です。