〇混沌ホテルを読む

 「ダーウィンの使者」を読んだのでヴィレッジブックスの「航路」を再読しようかと実家の本棚を眺めたのですが、負荷を考えてベストオブウィリス2分冊を持ってきました。なんと軟弱な。

 改めて読んで思いますが、さすがのセレクションです。本冊はユーモア篇なのですが、日本人には難しいユーモアもあり、初読の時には理解が浅かったものもありました。
 「混沌ホテル」は昔も今も傑作です。量子力学的挙動をする学会と学会会場での混乱の様子を息もつかせず語りつくします。
 「女王様でも」は女性が生理から解放されて久しい近未来に、敢えて自然のままのサイクルを大事にしようとするサイクリストに姪がなってしまってあたふたする女系親族の混乱を描きます。ウィリスは女性作家ですが、バリバリのフェミニズムSFは書かない人ですが、本編は一応のフェミニズムSFであり、発表当時業界内では議論を呼んだそうです。
 「インサイダー疑惑」は前にも書きましたが「どんとこい超常現象」を地で行く中編。チャネリングを扱わない超常現象批判雑誌の編集者が自分と意見を同じくするメンケンとチャネリングしたチャネラーがもしや本物ではという疑いを持ってしまう話し。実はこれを持って来た美人編集者が主人公を誘惑するために全てを仕組んでいたという話しなのですが、なぜ彼女がそこまでするか自信が持てないというちょっとイライラさせるラブストーリーでもあります。
 「魂はみずからの社会を選ぶ -侵略と撃退 エミリー・ディキンスンの詩二篇の執筆 年代再考 -ウェルズ的視点」は、HGウェルズの「宇宙戦争」で火星人が撃退されたのはウィルスのためではなく、三流詩人の疑似脚韻のお粗末さに辟易したからだという奇説。
 「まれびとこぞりて」エイリアンとのファーストコンタクトですが、侵略に来たわけでも友好に来たわけでもなく、なにを試みても仏頂面のエイリアンが、唯一クリスマスキャロルに反応したことから、その法則性を見出そうとする主人公の女性科学者と巻き込まれた二枚目クリスマス合唱指揮者の焦燥感あふれる努力を描いた中編。
 ウィリスの焦燥感と言うのは非常に圧が強いので、このくらいの寸で読まされると結構、応えます。そんなことを言っていたら「航路」とか「ドゥームズデイブック」など読めないのですが。そうか、だから「航路」を避けてしまったのか‥(;^ω^)
 引き続きシリアス篇の「空襲警報」へ進む予定です。