○最後のウィネベーゴを読む

bqsfgame2007-02-11

河出書房の異色作家の短編集を集めた奇想コレクションの最新刊。
短編集はどうしても長編シリーズ全盛の昨今は出版されにくいが、それだけに短編集を集めたこの出版は逆に新鮮。セレクションの良さ、軽装単行本の洒落たセンスと併せて非常に嬉しいシリーズだと思う。
最新刊は現代SF最高の書き手であるコニー・ウィリス。90年代以降もそれなりにSF界は良い作家が出ていると思うのだが、今でもオールタイムベストを取るとアシモフ、クラーク、ハインラインブラッドベリなどの大御所の名前が並ぶ。その中で90年代以降の作家で堂々と並ぶのはウィリスとシモンズくらいと言うのがウィリスの実力を示していると思う。
長めの作品が多く、360ページの単行本でありながら4本の収録。
個人的にもっともお気に入りは「タイムアウト」。独創的な理論に基づく時間実験と、日常生活に追われる主婦の物語。この二つがどう結びつくかは読んでのお楽しみだが、思えば臨死体験の究明実験と、焦燥感に追われる主人公の女性と言う組合せは大傑作「航路」に通じるものがある。時間テーマは傑作が多いが、そのさりげなさと仄かなテイストで、個人的にはプリーストの「蒼ざめた逍遥」などとともにベリーベストだと思う。
「スパイスボグロム」は、「明日泥棒」や「イリーガルエイリアン」を思わせる中途半端にコミニュケーションできるエイリアンとの大騒動。空間が限られたコロニーでのドタバタが、主人公の焦燥感とうウィリスに良くあるテイストと訳者が指摘する長屋落語を混ぜ合わせた面白さで長さを感じさせない。最後はエイリアンのリストが整然と説明されているようだが、個人的には少々わかりにくく再読のときの懸案。
「最後のウィネベーゴ」もバラバラの伏線が見事に一本に結実するという点では上記2作品以上に緻密にまとまていると思う。逆に完成度が高すぎて丁寧な読み方を要求するようにも思えて、少し辛く感じたのも事実。ウィリスは実は長編作家ではなくノヴェラくらいで一番実力を発揮すると言う見方もあるようだが、なるほどそうかも知れないと思わされる。
「女王様でも」は、最近ジェンダーものを書かなくなったという世評に反発して書いたという思いっきりジェンダーな月経SF。このユーモア感覚がウィリスをして単なるフェミニズム作家と言う見方が、いかに的外れかを思い知らせる‥(^_^;
全体を読んで主婦であり母であるウィリスの実体験をベースにした部分が特に「タイムアウト」と「女王様でも」では感じられたりして、傑作長編群とは別の面も垣間見える。非常に良い出版だと思う。