SFマガジン2024/8月号を読む

 図書館です。
 アンテナが低くて、プリーストが逝去したことを知りませんでした。
 プリースト追悼特集号だと言うので読まねばと思いましたが、断捨離中なので、図書館で借りて済ますことに。
●われ、腸卜師
 プリーストはホラー作家とは言えませんが、「限りなき夏」所収のアーキペラゴ短編諸作品では結構、怖い思いをさせられました。
 腸卜師は、エトルリア文化で動物の内臓を使った占いなのだそうです。共和制ローマに征服されてローマ文化の一画に引き継がれていったそうで、臓卜師とも。
 本作の主人公がどういう流れを汲んでいるのかは説明されませんが、兎にも角にも家に送られてくるペレットを食して、その力で時間移動して未来を占うようです。このペレットが、実は人間の臓器に発生した悪性腫瘍で繊維質が固くて丁寧に調理しないと食べられないというあたりの描写が結構エグいです。
 時は1937年でWW2勃発前なのですが、なぜか邸宅の裏庭の沼にはハインケルが墜落しています。上記のペレットの能力で主人公が過去へ遡行していくとハインケルは沼から後ろ向きに飛び立っていき、遡行を止めると再び墜落してきます。
p74
 5時間前、この機体の垂直尾翼に鍵十字の下にシリアル番号を見つけた。そのような番号の機体はまだ存在しないことを疑問の余地なく突き止めたのだ!
 時間移動、英独戦など、プリーストの代表作で登場してきた重要な要素が凝集された短編で、追悼特集に選ぶには成程と思わされる作品でした。ちょっとおぞましいのですが。
 特集解説を書いている古沢嘉通さんは66歳だそうで、できれば健筆な内にプリーストの未訳長編4つの内のいずれかを日本で出したいと言われていますが、是非とも実現して欲しいものです。古沢先生がいなくなってしまうと、プリーストは忘れられてしまうのではないかと大いに懸念します。
●火花師
 SFM名物の草上短編。
 花火でなく、火花の美しさを競う話し。
p128
 まず上がったのは、上海火汽華の二尺株だった。
 黄色い菊の大花弁が、夜明け前の数時間をかけて柔らかく開く、その周りに、深紅のチューリップが頭をもたげる。菊の花弁を割るようにして、ラベンダーの房が一斉に枝垂れる。
 主人公は花だけでなく、いずれは動物も火花の演出に加えようという野心的な有望新人です。
●八木山音花のIT奇譚
 夏海公司。初めて読むかと思います。
 天才的アプリ開発者の音花が、地図アプリの機能として地図内パースペクティブを見られるのに加えて、スライドスイッチでその場所の一定時間過去までを見られる機能を加えたという話し。主人公は、この機能をどうやってマーケティングしたら良いかの相談を受けて、過去の未解決事件の場所と時刻を入力して有力情報を得ることを考え付いたのですが、なんとそこには‥というお話し。
 未解決事件が未解決なのは、作者(?)が解決案を出せなくて詰まってしまったからだというオチなのですが、そんな馬鹿な!というSF落語です
 久しぶりに読みましたが、追悼特集以外の読み切りも消化して、まずまず満足です。さすがに過去の経緯が要る連載までは手が付きませんでしたが。