○ブレインヴァレーを読む

bqsfgame2013-02-27

1988年の日本SF大賞
ヴィーナスシティ、象られた力、蒲生亭事件に続いて最近4作目の日本SF大賞
パラサイトイヴで出世した瀬名英明の万難を排しての第2作。
要約してしまえば、新しいレセプターを発見した脳神経化学者の主人公が、辺地に建った最先端の研究所にハンティングされ、そこで実施されている脳科学の最前線の大野望に巻き込まれる話し。
脳科学の話しと、UFO体験、それに臨死体験を組み合わせて物語は進んでいく。そして大野望とは、なんと神を作り出すと言うプランだった。
下巻巻末の参考文献を見ると、作者が自身の専門に近い分野とは言え、どれほどの下調査をして書いたのか戦慄させられる。
ただ、残念ながら膨大な努力をすると作品が必ず面白くなるわけではないと言うのが難しいところ。
正直に言うと、それほど面白くはなかった。大作だがリーダビリティは高い。専門性の高い記述も難解に陥らずに上手く説明されていると思う。
しかし、最先端科学の持つセンスオブワンダーのようなものが希薄なのは何故だろう。また、ストーリーテリングも手に汗握らせると言う風には行かない。
臨死体験を扱った作品としては、ウィリスの航路があるが、あちらはウィリス独特の焦燥感に苛まれて途中で本を置けない読書体験をさせられた。それと比較すると、残念ながら数段落ちると言わざるを得ない。
ものすごい力作であり、容易に同水準の大作は出てこないであろうから、これがSF大賞だと言うことに大きな異議はない。しかし、力作と言うのは書く側の努力に対する表現であって、読む側のエンターテイメント性の評価ではない。その面で考えて、航路とは大差。
本書に出てくる「百匹目の猿」現象は不勉強にして知らなかったが、本作の陰謀において重要な役割を果たしており、またサイエンストリビアとしても面白い。ウィキペディアにちゃんと項目があるので興味のある方は検索してください。ちなみに、そこでは「創作」としてサイエンスとしては否定されています。