〇未踏の蒼穹を読む

 「火星の遺跡」に続いてJPホーガンです。

 ネオスぺオペだった「火星」とは打って変わってホーガンの原点であるサイエンスミステリー路線です。
 ただ、「星を継ぐもの」ほどの完成度ではないので、あまり期待しすぎないで読むのが吉と思います。
 主役は金星人たちです。
 彼らが、かつて地球に繁栄していた惑星間航行能力を持つ文明がなぜ滅びてしまったのかを探るという設定です。
 最初から金星の生物相に4塩基性生物と6塩基性生物が混在するのはなぜか?という謎も登場してきて、そうかそれなら‥と思わせてしまうのは失敗だと思います。そんなことは持ち出さずに知らん顔して地球を探検しに行けば良かったのにと真剣に思います。
 月のファーサイドの地下に発見された地球人にもほとんど知らされていなかった施設は一体なんなのか? 地球の文献に登場してくる「プロヴィデンス」という単語は何を意味するのか? それはファーサイド施設のことなのか?
と、いろいろな謎を次々に提示して来ます。地球文明が最終核戦争と、その後のB兵器によって滅びたことが明らかになっていき、地球人の闘争好き、権力志向などに対する強い批判が展開されます。
 金星人は理性的だという設定で始まるのですが、進行につれ地球人のような権力体制を志向する運動が金星にも立ち上がってきていることが明らかになります。
 一応、主人公カップルのラヴストーリーも走っており、ちょっと盛沢山に過ぎるかなと言う気がします。また、登場人物が多いわりに個性付けが甘く、「誰が誰やら良く判らない」のは、ホーガン先生のいつもの欠点と言いながら、やはり辛い気がします。
 それでも、一応、サイエンスミステリーとしての謎ときには久しぶりに一定の冴えが見られるので、合格点を越えているのは間違いありません。
 本当だったら、地球人はどこへ行ったのだろう?という謎で第2部をやるのがホーガン先生らしい気がするのに、そうなっていないのはお年を召してお疲れだったのでしょうか。
 ホーガンは日本で人気が高く翻訳が進んでいる作家ですが、最終長編の「月の花」が未訳で残っているのは少し不思議です。