○アポロの彼方を読む

bqsfgame2014-05-07

ハヤカワの海外SFノヴェルズの薄い青緑の一冊です。
なんで今頃になって?‥と言う感じでしょう。
そもそもは、シルヴァーバーグの再読を始めたのがキッカケ。そうしたら、小説製造工場のシルヴァーバーグからの連想で、SFMに載った中編版「プローズボール」を思い出しました。で、その作者であるマルツバーグが出て来て、地元図書館で検索したら本書が蔵書にありました。
ハヤカワの海外SFノヴェルズは、上品な装丁、巨匠や新星の話題作、受賞作が並んだことで格調高い雰囲気を持っていました。ただ、その中に突然、なんでこれが入っているんだろうと思う物がありました。その一冊が本書。
マルツバーグは、日本には余り紹介されておらず知名度は極めて低いです。しかし、編集者工場として活躍し、一日に7冊分くらいの応募原稿を読んで、長文のコメントを返していたそうです。作家としても様々なペンネームを駆使して百冊あまりを執筆したと言います。独特のユーモア感覚の物が多く、本人はヘンリー・カットナーを意識していたようです。
閑話休題
本書は第1回のジョン・キャンベル賞の受賞作で、玄人筋では評判が高かったようです。
主人公は、金星有人探査の副長。彼は機長と二人で送り込まれながら探査に失敗し、一人だけ帰還しました。なぜ機長は帰らなかったのか、なぜ探査飛行は着陸せずに帰還したのか。これらの重要な質問を当局に監禁されて詰問され続けています。
そして、彼は説明し始めます。最初の説明は、実は密閉された空間で性的抑圧が高まり、機長が彼を襲ってきたから機長を殺害し機外に投棄して帰還したと言うもの。
しかし、パイロットは厳格な適性審査を受けており、当局は説明に納得せず、非常手段に訴えてでも真実を突き止めると脅してきます。
次に彼が、「では真実を語ろう」と言いだします。その説明は、金星に接近した所、金星人がテレパシーで彼らに話しかけ、金星探査を強行するなら地球を滅ぼすと脅してきたと言うもの。しかし、パイロットとは名ばかりで、プログラムされた軌道を変更できないため、金星人は見せしめに機長を殺害し、副長一人だけをメッセンジャーとして地球に送り返してきたのだと言うのです。
しかし、金星に生命の兆しは認められないとする当局は、この説明にも納得しません。
やがて、当局と彼との会話の中で、アポロ月探査計画の後に、火星探査計画があり惨憺たる失敗に終わった事実が明らかになります。そして、金星探査計画は、汚名挽回して宇宙計画を継続するため成功必須だったことが判ります。そのため、当局は失敗を公開できず、彼を監禁し続け、なんらかの成果を抽出(捏造?)するべく、彼からストーリーを引き出そうとしているのだと言う話しになります。
物語も終盤になると、実は「本書はマルツバーグが書いた小説」ではなく、「本当に存在した金星探査計画で帰還した副長が書いた本物の手記なのだ」と言う話しになります。
そんなこんなで話しは二転三転していくのですが、基本的に主人公が失敗した金星探査計画の唯一の生還者であると言う本線は一貫しています。次々に真相なるものが登場しますが、結局の所は何が真相だったのかは一向に明確にならないまま終ります。
こう書くと不条理物のようにも見えますが、そんなことはありません。その段階、その段階での論理性は確保されていて、それなのにどこにも辿りつかないと言う不思議なスタイルを構築しているのです。
リーダビリティは高く、読んでいて苦痛に感じるようなことはありません。どこにも辿りつかないことを別にすれば、読んでいて面白いと言えます。ただ、本書を読んで、もっとマルツバーグを読みたくなるかと言うと、そこは微妙です‥(^_^;