×火星ノンストップを読む

bqsfgame2014-12-03

先日の「SFマガジン700海外編」の「ポータルズノンストップ」を読んだら、ジャック・ウィリアムスンを再評価したくなって図書館から借りてきた。
SF作家である山本弘が自分の好きなタイプのSFに日の目を再び当てるために編んだアンソロジー。一通り読んだが、企画としては凄く面白そうに聞こえたが、内容的にはガッカリ。奇想系のトンデモ短編が並ぶが、こういうのは雑誌で一遍、あるいはアンソロジーで一遍入っていると面白いが、ずらりと並ぶと意外に飽きが来やすい。特に、小説としての書き振りに問題がある作品が多いので、並ぶと辛い気がする。
「火星ノンストップ」は、火星にエイリアンが来襲し、地球の大気を奪うべく火星から地球へと繋がる大竜巻を引き起こす話し。しかし、本題はそこではなく、この火星と地球の間の竜巻を利用して主人公がプロペラ機で地球から火星までノンストップ飛行することにある。リンドバーグに代表されるノンストップ飛行は、かつてはセンスオブワンダーの最前線だった。それをSFに拡張したもので、火星まで飛ぶために大道具を作ってしまう力技が凄い。小説としては、とってつけたようなオチを迎えるのでイマイチ。
コリン・キャップの「ラムダ1」は、原子を振動させて他の原子と擦れ違うことができるようにする技術が登場。これを利用して、地球の裏側まで直線で移動する高速移動機関が発達する。で、これが事故を起こして異次元空間で遭難したのを助けに行くと言う話し。
奇想系としては面白いのですが、小説としては魅力不足です。クラークの「渇きの海」みたいに書く力があれば、キャップも一流作家になれたでしょうに。
アラン・ナースの「焦熱面横断」は、水星がいつも同じ面を太陽に向けていると信じられていた時代の冒険譚。南極点横断の酷暑版みたいなものですが、これは小説として割と良く書けています。ゼラズニイの「この死すべき山」辺りに近いテイスト。人間の挑戦を拒む大自然に挑戦する冒険譚は、いつの時代も魅力的なものです。
ポール・アンダースンの「わが名はジョー」は、一転して地表面があった時代の木星にテレパシー操縦するサイボーグを降下させる話し。地味な中堅作家のイメージが強いアンダースンですが、本作の筆致は線が太く好感が持てます。
ヴァン・ヴォクトの「野獣の地下牢」は火星古代文明に封じられたエイリアンが、脱出のために地球に変身可能なアンドロイドを送り込んで素数暗号を解ける数学者を探すと言う話し。変身可能なアンドロイドがターゲットを探して次々に殺人を犯して被害者に変身するくだりは、なるほど「ターミネーター2」の元ネタかもと思わせます。エイリアン視点で語られる所も、ヴォクトならではです。惜しむらくは綻びがいろいろと目に付きすぎるでしょうか。
ラインスターの「時の脇道」は、パラレルワールドが混在する状況を舞台に、自分の野心を実現しようとする教授と、それに連れられた学生たちの冒険。パラレルワールドSFの嚆矢と言われるそうですが、作者も概念を整理してイメージできていないようで完成度は低めです。個人的にラインスターは好きな作家の一人なのですが、山本氏が指摘する通りビジュアルイメージのインパクトが命。その意味では「青い世界の怪物」で、深海から浮き上がってきたトンネルに船が真っ逆さまに落ちるシーンが印象深いです。一応、SF的な謎解きもあったし。
後書きによると、山本氏は続刊の構想を持っていたようだが、本書発行から既に9年経って実現していない。やはり売れなかったのだろう。中村融氏の20世紀SFと比べると、アンソロジーとしての出来栄えは見劣りするので止むを得ないと思う。判型や価格も買い辛いものになっているし。