☆街角の書店を読む

 中村融さんのアンソロジーです。

 一度、ほぼ読み終わりながら置いてしまって、あまりに日が空いたので最初から全部を読み直しました。

  • 肥満翼賛倶楽部

 キット・リードの肥育学園をも越える怪篇。

 こちらでは、奥さんたちがご主人を太らせるコンテストという設定です。

 優勝者はなんと300kgを越すと言うのですからものすごい。ヘイスタック・カルホーンだって、273kg(ウィキペディアによる)だったのですから、尋常ならざる重さです。

 イーヴリン・ウォーという聞いたことのない作家の短編。

 アマゾナスを冒険して、ディケンズを愛する男に拉致されてしまい救援を待っているお話しです。ところが、男が珍しく気前よく地酒をおごってくれたので飲み過ぎてしまい起きたら、寝ている間に救援隊が来て男に言いくるめられて(遺品として)腕時計だけ持って帰ってしまったという。

・お告げ

 中村氏が本アンソロジーに是非とも入れたかった3作の一つと言うのだが、残念ながら小生の琴線には触れなかった。

・アルフレッドの箱舟

 洪水が来るというお告げを受けて箱舟を作るアルフレッド。

 雨が本当に振り出して、多くの人が乗せてくれと押し掛けてくる。そして、みんなでアルフレッドを船の外に放り出してしまったが、そうしたら普通に足が立ってしまい、なーんだという人を食った話し。ジャック・ヴァンス

  • おもちゃ

 子供の頃に自分が遊んだトラックのおもちゃが骨董屋のショーウィンドウに、店に入って見せてもらうと他にも自分が遊んだそのもの(付けた記憶のある傷まである)がずらりと並んでいるというお話し。ハーヴェイ・ジェイコヴス。

・赤い心臓と青い薔薇

 ミルドレッド・クリンガーマン。

 中村氏の別アンソロジーで好評だったということでの再登場だそうだが、本編だけではピンと来なかった。好評だった方(時を生きる種族収載)も読んでみるかどうか思案中。

・姉の夫

 ハイランダーズ勤務の弟が友人を連れて帰ってきて、その友人と急速に親密になり結婚することに。しかし、ある日、夫は出かけていき蒸発してしまう。三人で撮った写真を現像してみると、弟と自分の二人だけしか写っていない。

・遭遇

 ケイト・ウィルヘルム。

 史上級の積雪に見舞われ、グレイハウンドバスの中継所で乗り継ぎが切れて泊まることになった女の一夜の経験。これだけで読ませてしまうのはウィルヘルムならではだが、中村氏はSF的な解釈ができる作品とのこと。筆者には思いつかなかった。

  • ナックルズ

 カート・クラーク。

 サンタクロースと対になる悪神をこしらえて子供たちを良い子にさせようと企むお話し。ナックルズは、悪い子は袋に詰めて攫ってしまうという。ナックルズをひろめたフランクはその年のクリスマスに姿を消してしまう。

・試金石

 テリイ・カー。

 オールドマーケットのなんでも屋で売っていた奇妙な形の試金石と言う石。この石を握っていると不思議と落ち着くので$5払って買うことに。

・お隣の男の子

 表題のラジオ番組の収録。ゲストの男の子が人を殺して死体を処理するのをアンクル・ジョージに手伝ってもらったと延々と強硬に主張する話し。

・古屋敷

 フレドリック・ブラウン

 SS集の邦訳時に経緯不明で割愛された一編。こういうのを発掘して世に出すのがアンソロジストの生き甲斐なのだろうか。まぁ、割愛されても仕方がないかなと言う出来。

  • M街七番地の出来事

 ノーベル文学賞作家であるスタインベックの奇作。

 息子が噛んでいた風船ガムが独立した生命を得て、逆に息子を噛み続けようと追い回してくるという恐怖譚。意外なほどに面白い。

●ボルジアの手

 さまよえるユダヤ人に頼んで、ボルジアの手を移植してもらうドイツ人少年の話し。

 かつて同じ手を移植してもらったボナパルトは、ナポレオンとして欧州を席巻したという。このドイツ人の少年は最後に突然「ハイル!」と叫び、実はヒトラーになるということを連想させて終る。

 ロジャー・ゼラズニイ。いかにも彼らしいカッコイイ一編。

・アダムズ氏の邪悪な園

 フリッツ・ライバーの怪奇譚。

 ライバーはSFも書きますが、基本的には怪奇小説の人だという気がします。

 本編は、「プレイボーイ」編集長が可愛い美人の女の子の体毛などを利用して人面花を栽培しているというお話しです。雰囲気のある、ちょっと怖い話しです。

  • 大瀑布

 ハリスンの、瀑布小説です。

 惑星規模の巨大な瀑布を訪れて、そこに住む難聴気味の男にインタビューするだけの話し。

  • 旅の途中で

 往年の別冊・奇想天外に掲載されたきりと言う珍品。

 頭が胴体と生き別れになってしまい、必死に元の位置に戻ろうとする掌編。

 火星のチェス人間を思い出しました。

・街角の書店

 うーん、中村氏の思い入れある3篇の一つなのですが、実はピンと来ませんでした。なんでかなぁ。「お告げ」と言い、これと言い中村さんのノスタルジーに共感できていないのでしょうか。