〇時の顔:ハルキ文庫を読む

ハルキ文庫の方。

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と断るのは、同題の本が角川文庫からも出ているからです。

角川文庫とハルキ文庫の関係を考えると、単なる再版かと思いますが、実は全然違います。表題作以外は一つも重複がない、まったく別の短編集。

本作の収録作品は、

時の顔

御先祖様万歳

地には平和を

痩せがまんの系譜

哲学者の小径

愚行の輪

比丘尼の死

お茶漬の味

失われた結末

ホムンよ故郷を見よ

 

日下氏の編による小松左京短編集:時間編となっています。ちなみにハルキ文庫の短編集としては、この前に宇宙編、結晶星団が、この後にホラー編(?)、くだんのははが並んでいます。

ハルキ文庫は最近の叢書ですので、小松左京の短編を全体として見渡してから出版計画を立てられました。その結果、前述したように傾向別のアンソロジー編成をできました。その上で、それぞれの代表作を表題に据えたのですが、結果として過去にあった別の本と同題で内容異質と言う非常に紛らわしいことになっています。

本書は時間編であると同時に、小松左京のデビュー前後を俯瞰できるようになっています。

第1回ハヤカワSFコンテストの選外努力賞「地には平和を」

第2回ハヤカワSFコンテスト佳作第3席「お茶漬の味」

が一緒に収録されています。さらに、これらより古い「哲学者の小径」が入っておりデビュー前まで見ることができます。惜しむらくはデビュー作「易占逃里記」は入っていませんが。

少し前に紹介した中村融セレクションとしては、1の「御先祖様万歳」と3の「痩せがまんの系譜」が収録されています。

「御先祖様万歳」は失業して田舎に帰ってきた主人公が、祖母の所有する裏山を背景に映った御先祖様の写真に、まだ計画段階の新幹線(と思われる特急)が写り込んでいるのを発見して裏山を探検すると‥。「なんと裏山の洞穴は100年前に接続していた」というドタバタです。ドタバタであると同時に、文明風刺になっていて、日本の原風景描写にもなっていて、短編ながらいろいろに味わい深い。

「痩せがまんの系譜」は35才の独身OL(今で言うこじらせ系)の主人公の所に、突然、子孫を名乗る青年が現れて「なんとしても結婚して子供を産んでもらわねば子孫一同消滅してしまうので困る」と好みの男性の押し売りに来る話し。これもドタバタだが、「ターミネーター」のサラ・コナーズと同アイデアな訳で、こうした古典的な時間SFを小松左京が早期に書いていたことがポイント。また、ドタバタながら、しっかり着地する安定感もあって、小松左京の初期SFの代表作の一つと思う。

この2編を選ぶ辺りは、さすがの中村セレクション。

それ以外では、「骨」が不思議な話し。裏庭で井戸を掘り始めたら化石が出てきて、深く掘っていくとどんどん時代が新しくなっていくという普通と逆の構成になっている。最後の最後まで掘り切った男が最後に辿り着いたのは‥。という。ここらへんのドタバタやユーモアを読んでいると、後のかんべむさしや、海の向こうのラファティを感じさせる部分もあり、小松左京の抽斗の多さを改めて痛感する。