○時の顔:カドカワ版を読む

少し間が空きましたが、引き続き(?)時の顔です。

今度は、角川文庫版です。

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前述した通りハルキ文庫版とは、表題作以外一つも一致しません。

時の顔

物体O

お召し

サテライトオペレーション

自然の呼ぶ声

終わりなき負債

 

です。

「時の顔」と、「物体O」は、ハルキ文庫で表題作になります。中村融セレクションには、「お召し」と「黴」が入っています。すごい打率の短編集です。

「お召し」は、12才以上の大人(?)が全て消えてしまい、残った子供たちも12才になると順に消えていくようになってしまった世界を描きます。養魚池の魚の身になってごらん‥という発想ですが、それを思考実験として突き詰め、最後に感動ものの落ちを付けています。

「黴」は、宇宙の遙かかなたから胞子の形態で飛んできた金属を吸収して成体として成長し、また次の世代の胞子を射出する生物の話しです。流れ星として観測された所から、東京に落下した一つが京浜工業地帯を吸収して巨大成体となります。一種の宇宙侵略もののような展開です。この巨大成体に侵入して、それが地球の黴のアナロジーだということが明らかになります。

核兵器で本体を破壊しようとするアメリカ政府の決断のカウントダウンに追われる中での切迫した探検ですが、緊迫感はそれほど高くありません。人間側の兵器があれもこれも通用しないという焦燥感の盛り上げが足りないでしょうか。

小松先生は、宇宙侵略ものとして読ませようという意図はなく、銀河規模の巨大な黴のライフサイクルを見せて、生命と言うのは何のために宇宙に誕生したのかという疑問を提起します。

「物体O」は、中村セレクションから漏れていますが、小松短編の代表作の一つです。直径1000km、厚さ100km、高さ20kmの円筒が突然出現し、関西地方は外部から隔絶されてしまいます。この時に東京が100kmの厚み部分に潰されて行政府も皇室も一瞬にして全滅してしまうのが、大阪人の小松先生のアンチ東京イズムでしょうか。これも思考実験を突き詰めた形式の短編です。思考実験としては、「お召し」より面白い気がします。