1981年の初刷です。
それ以来ですから40年ぶりに読んだことになります。
改めて読んでみると、多分に記憶が美化されていたかなと言う気もしました。
もっと清冽で洗練されていたような気がしていたのですが、思ったほどではありませんでした。
本書を読むと、堀晃が石原先生とかぶるエンジニアリングSFで登場してきたことが良く判ります。これを受けて石原先生はハチャメチャスペオペ路線に移動したのでしょうか? ご本人が証言しないと今となっては判らないことですが。
「太陽風交点」
表題作。太陽フレア事故で亡くなった彼女をコピーした観測システムがヘルクレス110にあり、幻聴に悩まされていると聞き向かう主人公。
宇宙事故で失った恋人を追い求めてと言うのは、この時代のSF短編でしばしば見られる設定。ウラシマ効果で自分が属する時代と永久に決別すると判っていても恒星旅行に出る動機として説得力が十分にあるということなのでしょう。
この作品のエンジニアリングアイデアは、定期的に「LIFE」のグライダーガンのようにフッ素フィルム生物の太陽ヨットを打ち出すというヘルクレス110です。
クラークの「太陽からの風」のオマージュですが、自然現象として定期的に射出される結晶フィルム生物というのが新機軸。
「イカルスの翼」
巻頭です。
離心率の高い灼熱地獄になる惑星イカルスへの流刑を題材にしています。
どうやって生き延びるかと言う点では、変形の方程式ものと言えます。
「骨折星雲」
扁平円盤状銀河系なのですが、中央部で折れてバタフライ状になっているという。しかも、公転する恒星は折れ目で何の外力もなく方向転換して別の面軌道へ移るというのです。絶対あり得ないという点では、小松左京の「結晶星団」や「氷の下の暗い顔」と同じ系列です。
別にカラクリ明かしはありません。ただ、そういうものが宇宙にはあるというのです。
「悪魔のホットライン」
巻末です。
此処で言う悪魔は、熱力学のマックスウェルの悪魔です。エントロピーを減少させることでノイズから意味のある信号を取り出す超能力を持った通信士というネタ。
なるほどなぁと思います。