アーサーCクラークの短編集、第4弾です。半年ほど空いてしまいました。
空いてしまったのが良かったのか、新鮮な感じで読めました。
相変わらず20ページ以下の掌編が多く、一発ネタも少なくありません。それはそれとして、宇宙開発時代の盛り上がりでSF専門誌以外にもいろいろと書いていたのだと判ります。掲載誌を見ると、プレイボーイや、ヴォーグの名前もあります。
10の世界とは、太陽を含んだ太陽系の恒星惑星のことですが、別に10箇所全部のお話しが揃っている訳ではありません。
個人的なお気に入りは、「スペースマン」にも収録された「幽霊宇宙服」です。宇宙空間では資源はなにものも無駄にされずリサイクルされる。と言うことは、事故死した飛行士が着ていて回収された宇宙服も‥という一発ネタです。怖い導入部とは打って変わった微笑ましい謎解きは、いささかクラークらしくないでしょうか。
「憎悪」は、ブダペストから脱出して真珠集めをしている男が、ソビエトの着陸艇を発見して復讐する話し。米ソ冷戦も、ハンガリー動乱も遠くなった今では、若い人にはなんでこんなことをするのか理解できないかも知れない。そんな恐ろしい時代が、割と最近の話しとしてあったのです。いや、今も場所によってはあるのです。
「土星は昇る」は、圧倒的な土星景観の一発ネタですが、例によってクラークのシニカルな笑いのセンスを感じさせます。しかし、これを当時は必ずしも笑えなかったのかなと思います。今となってこそ、逆に笑えますが。
「エデンの園の前で」は、金星の生態系を無造作に破壊してしまうお話し。まぁ、有り得ないお話しなのですが、当時の宇宙開発の理解度からすると、これで成立していたのでしょう。時代を感じさせます。
「軽い日射症」は、サッカーの勝敗に国を挙げて大騒ぎする南米諸国を揶揄する一作品。モデルは、ペルーとパラグアイっぽいです。それにしても賄賂を受け取っていかさまをする審判と言い、その審判を罰する方法と言い、クラークも人が悪い。
「ドッグ・スター」は、タイトルの通り犬のお話しです。これも「スペースマン」に収録されていました。犬を扱ったSFアンソロジーである「幻想の犬たち」に入っていないのは残念な感じ。
巻末の中編「海にいたる道」は、「都市と星」へと繋がる習作とのことです。なるほど、そう言われると未来社会、閉鎖的な社会から旅立つ少年、彼が出会う先端文明と言った所は共通しています。まだまだ粗削りな感じではありますが。
余談ですが、猫と犬を扱った抒情的な作品が揃っているのは、本短編集全体のトーンを明るくしているように思います。
さぁ、次は大本命の「太陽からの風」になります。