○眩暈を読む

bqsfgame2011-06-21

正直、☆にするかどうか悩んだ。
ボブ・ショウの短めの長編。懐かしいサンリオSF文庫だ。
サンリオ崩壊で読めなくなった作家の中では、マイケル・コニイ、DGコンプトンとともにイギリス3強を形成しているだろうか。
本作は、非常に地味だ。これもイギリスSFの伝統か。
道具立てはしっかりSFしているのだが、書きぶりや展開はまるで地味な普通小説。その代わりに人物描写は緻密で安定している。
個人用の反重力パックが普及した現代が舞台。それによって、暴走族ならぬ暴翔族がどこの地方でも若者により形成されている。警官はそれを取り締まりに掛かるが、多勢に無勢で容易ではない。
こうした反重力パックで飛翔して入ることを想定したアイスキャンデーを地面に刺して立てたようなバブルなホテル。しかし、見込みが外れて今は廃墟化し、暴翔族の溜まり場になっている。
主人公は元警官で事故によって地面に叩きつけられたトラウマで今は飛翔することができない‥。
此処まで書くと、どんなストーリーが展開され、最後はどんなことになるかは読書家の人なら想像が付いてしまうかも知れない。
その想像が付いてしまう展開と結末に向って、ショウは急ぐことなく着実に筆を進めていく。ショウの翻訳作品の中では「去りにし日々の光」が著名だ。
しかし、筆者は本書の方が完成度が高いのではないかと思った。ネットを検索すると、同じ意見の人が出てくるので、筆者の天邪鬼でもないと思う。
是非とも復刊して欲しい中堅作家の佳作。