○ヴァリスを読む

bqsfgame2018-04-09

「暗闇のスキャナー」に続いて山形訳で読みました。
本書は、1981年にアメリカで出版され、翌年にサンリオでタイムリーに訳されました。当時の訳者であった大瀧氏は、本書のあとがきの言葉を借りれば神学書として訳出した印象です。
それに対して本書は、小説として訳しなおしてあります。かくて、リーダビリティは大幅に改善しました。と言っても、やっと普通の本になったというくらいです。逆に言えば、サンリオ版は非常に苦行だったと言う苦い記憶があります。そのため、次の「聖なる侵入」へとは読み進めませんでした。
本書は小説として破綻していると良く言われるのですが、軽快な山形版で読むと、それほど気になりません。確かに、ホースラヴァー・ファットが、フィル・ディックと分離してしまうと言う問題があり、判りにくいことは確かです。しかし、それほど読み進むのに気になって夜も眠れないということはありません。
ファットの彼女として、グロリア、ベス、シルヴィアなどが順に登場して来ますが、それぞれに問題を抱えています。実在のディックの妻たちがモチーフであろうことは巷間で良く言われていることです。グロリアは自殺、ベスは財産を持ち逃げして失踪、シルヴィアは癌で病死してしまいます。
ディックの作家仲間がモチーフと思しき友人たちも登場してきて、そこらへんもいろいろに読めるようになっています。
話題作でしたし、35年経った今でも問題作であることに変わりありません。もっと議論されても良い作品ですが、それほどには話題にならないのは旧訳の読みにくさがハードルを上げているからでしょうか。
今から読む人は、是非とも山形訳を。