☆昏き道行きを読む

 大富豪同心24です。TVのシーズン3部分に相当します。

 江戸の市中に偽小判が流通し、それによる通貨不信から来る不景気が深刻になります。一方、卯之吉は幸千代君の替え玉で藩邸に。幸千代は逆に卯之吉の代わりで同心の勤めに勤しみます。
この巻では幸千代の婚約者の真琴姫の護衛に上京した三人の美人武芸者が大活躍します。
まずおゆきこと吹雪は、同心の尾上に見初められ、尾上は彼女に会うために熱心に藩邸の見回りに通います。
しかし、彼女の幼馴染のトキゾウが現れ、なんと甲府金山伝統の穴掘り術で藩邸の地下に横穴を掘り、幸千代を爆殺しようとします。
p118
「とうとう見つけたぜ悪党! 手に手を取っての道行きもこれまでだッ。観念しやがれッ」
 荒海の三右衛門と子分衆が駆け寄ってきて、トキゾウと吹雪を取り囲んだ。
 トキゾウも吹雪も短刀を握って身構える。決死の形相だ。
 黒巻羽織の同心がフラリと現れた。
「両人とも神妙にいたせ。刃物を捨てよ」
 吹雪がハッと息をのむ。
「尾上様!」
「どうか、お見逃しください!」
 尾上は首を横に振る。
「それはできぬ」
 トキゾウが吹雪に囁いた。
「どうやらこれまでだぜ。長老たちに迷惑はかけられねぇ」
「トキゾウさん‥」
 二人は向かい合うと、互いの胸に短刀の先を向けた。一瞬、見つめ合った後、互いの胸を貫き合った。
 三右衛門が「あっ!」と叫ぶ。
「馬鹿な真似をしやがって!」
 という悲劇で終わります。吹雪も尾上も非常に魅力的に描かれていて、この第一部だけで一冊分の満足感がありました。
 第三部では、今まで語られなかった水谷弥五郎の過去が明かされます。
p327
「拙者も十八年前の件について恨みがましい文言を並べるつもりはござらぬ。
 ただひとつだけ、お聞きしたいことがござる」
「なんじゃ」
「拙者の子についてでござる」
「お前の子とは?」
「拙者の妻、ミツは、拙者が出奔したおりに懐妊しておりました」
 植竹は「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「お前の子ではあるまい。お前の従兄弟、水谷郁太郎の子じゃ。お前が斬り殺した郁太郎の子だぞ」
 水谷弥五郎は無視して話を進める。
「妻の腹中にあった子は、その後いかに相成りましたでしょうか」
「無事に生まれた」
男児でござったか、それとも娘でござったか」
「娘じゃ」
「娘‥」
「お前のせいで母子ともに不幸であったぞ。お前は、水谷家を継ぐはずであった従兄弟を殺して逃げた。かくして水谷家は断絶じゃ、母も娘も行き場がなくなったのだ」

 この娘が先に紹介した三人の美人武芸者の一人、松葉であったらしいのですが、藩の追っ手に切られて水谷が見守る中で落命します。
 ほかに松葉と美鈴の美人武芸者の稽古対決とか、サービス満点の巻でした。
 TVシーズン3には、この美人武芸者トリオは出てこなかったのですが、非常に残念な気がします。ちなみに最後の一人は紅葉です。赤、白、緑のイタリアントリコロール。