×すべての美しい馬を読む

 コーマック・マッカーシーその2です。図書館。

 国境三部作の一作目です。

 それまで、どちらかと言うとマニア向けの本を書くと思われていたマッカーシーが万人向けのベストセラーを書いたとされているそうです。

 読んだ感想としては、リーダビリティは今一つ。ストーリー展開も、それほど胸躍るという感じではありません。

 テキサスから国境を越えてメキシコへ行き、そこで素晴らしい馬と素敵な彼女に出会ってテキサスに戻ってくる話しです。

 ただ、牧場ビジネスも恋も実らないし、途中で知り合った友人がメキシコで射殺されたり、自分も拉致されて酷い目にあったりします。うーん、カタルシスないですね。

p89

 ラ・プリシマ・コンセプシオン牧場はメキシコのこの地方で1824年の入植者法によって所有を認められた6平方リーグを完全に保持しているごく少数の牧場のひとつであり持ち主のドン・エクトル・ローチャ・イ・ビヤレアルは所有地に実際に住んでいる少数の牧場主のひとりで、その土地は170年前から彼の一族のものだった。ドン・エクトルは今年47歳で一族が新世界に渡ってきて以来その年齢に達した初めての男子相続人であった。

p100

 背後に蹄の音がしたときに振り返ろうとしたがすぐに後ろの馬の歩様が変わるのに気づいた。振り返らずにいるとやがてアラブ馬が彼の馬の横に並び、首を弓なりにして歩みながら片目を野生馬に向け警戒の色ではなくかすかな嫌悪の色を浮かべた。

p163

 ただ連れていって撃つだけじゃないんだ、と彼はいった。くそったれ。ただ連れていって撃ちゃいいじゃないあ。

 ジョン・グレイディは相棒を見た。そのとき拳銃の発射音が黒檀の木立の向こうから聞こえてきた。大きな音ではなかった。ポンという響きのない音だった。それからもう一回聞こえた。

p184

 その動きは正確で怨恨による襲撃でないことははっきりわかった。明らかに誰かに雇われているのだった。ジョン・グレイディが盆を振り下ろすと男はさっと頭を下げ一度攻撃するふりをしてからさっと前に出てきた。ジョン・グレイディは盆を握り直して壁に沿って動いた。下を口の端に這わせると血の味がした。

p210

 わたしたちの一族にはたちのよくない男と悲惨な恋愛関係に落ちた女が十本の指では数えきれないほどいます。もちろん、時代のおかげで革命家を気取ることのできた男もいました。わたしの妹のマティルデは21になるまでに二人の夫に先立たれました。

p219

 まもなく武装勢力が蜂起しました。もちろんウエルタ将軍が陰の共犯者でした。自らの地位が安泰と見てとると反乱勢力と意を通じて政府打倒の手引きをしたのです。グスターボが捕えられました。それからフランシスコとピノスアレスも。グスターボは広場の暴徒たちの前に引き出されました。暴徒は松明やカンテラを手に彼を取り巻きました。そして片目野郎と罵りながら拷問を加えたのです。

p267

 その娘を身重にしたわけではないのだろう?

 はい、でもおれはあの娘を愛していました。

 判事は重々しくうなずいた。そうか、と彼は言った。愛していたから身重にしたかもしれなかったと。

 そうです。

 判事はジョン・グレイディをじっと見つめた。なあきみ、と彼はいった、きみは少し自分に厳しすぎるようだ。きみの話を聞いて思ったのはきみはじつによく頑張ってあの土地から無事に帰ってきたということだ。おそらくいちばんいいのはこのまま前に進んで後ろを振り返らないことだろう。

p268

 きみは裁判官になりたいとは思わんだろうな?

 ええ。そりゃ思いません。

 わしもそうだったんだ。

 え?

 わしは裁判官などになりたくなかった。若いころはサン・アントニオで弁護士をしていたが父親が病気になったのでこの町へ戻ってきて郡検察官の下で働くようになった。だが裁判官になる気はなかったんだよ。たぶんいまのきみと同じような気持ちだったのだろう。いやいまだってそうなのだ。

 

 この最後の裁判官との会話が非常に味があるのですが、それは此処まで読み進んできたから判ることなのでご興味のある方は是非とも本書を読んでみてください。