〇ミサゴの森を読む

 意外なことに角川書店です。

 ロバート・ホールドストックの代表作。英国SF作家協会賞受賞作。

 ミサゴは、mythと、imagoの合成語です。

 英国にある小さな森は、その奥に異世界を含んでおり人々の集合的無意識にあるものを現実化する力を持っているという設定。

 彼のロビンフッドも、アーサー王も、こうした森が形成した英国民族の集合的無意識から誕生したヒーローだというのです。こうした森は英国の随所にあり、結果としてロビンフッドも随所でばらばらに誕生した複数が存在したというのです。ロビンフッドが神出鬼没なのも、アーサー王の出自が特定できないのも、これが原因だという‥。

 本書の主人公の父の無意識から誕生したと目される燃えるような赤毛の猛女を父と兄が取り合います。主人公はこの猛女と結ばれてしまい兄と決定的に対立。兄は彼女を連れ去って森へ消えました。それを追って森へと入っていく話しです。

 燃えるような赤毛の王女でブリタニアと言えば、ご存知、ブーディカであり、ブーディカもまた森が生み出したミサゴだと言うのです。

 訳者(小尾芙佐)あとがきによると、本書には続編「ラヴォンディス」があり、これも角川書店から刊行予定と書いてあります。30年以上も経過していますが実現した形跡はないので、時効でしょうか。でも、竹書房文庫さんとかやってくれませんかね?

 ネットを検索したら原書で読まれた方のコメントが。

ロバート・ホールドストック - 今日読んだSF/FT/HRの感想@SF板まとめページ - atwiki(アットウィキ)

 絶賛ですね。そういわれると読んでみたくなるのが人情と言うものです。

p47

 ああいう古い原生林、第一次原生林のなかで集積したオーラは極めて強力なものを形成する、われわれの無意識と相互に影響しあうことのできる一種の創造場だね。そして彼がプレ・ミサゴと呼んでいるものはわれわれの無意識のなかにある-ミサゴとはつまり、ミス、イマゴ、神話の登場人物の理想化された形のイメージだ。

p50

「彼女はおやじのミサゴだったんだよ、ローマ時代からやってきた娘、大地の女神の化身、戦士たる王女、艱難辛苦のあげく、一族を結束できる女性」

「イケニ族の王妃(クイーン・ボーディアカ)」と僕は言った。

p116

かの女が向かっているローマの駐屯地の文明人同様に。かの女はけだしケルトの王女の理想像なり、つややかな赤き髪、白き肌、少女のようにしてなおかつ強靭なる肉体。かの女は戦士なり。だが武器を扱う手は、馴れぬもののようにまことにぎこちなし。

p181

「小ちゃな女の子はなんでできてるの?」と訊くと、彼女はさっとまわりを見回して、質問の意味がわからなくて眉をひそめ、それからかすかに笑った。僕の笑顔を見てどうやら謎かけなんだと気づくと面白そうという表情になる。「甘いドングリ、つぶした蜜蜂、ブルーベルの蜜」と彼女は答えた。

p240

「彼があの少女を殺したのはどのくらい前なのか?」

「二日。だがおそらく手を下したのは外人ではあるまい。彼が原生林からラヴォンディスへ退くまで手下の戦士が守っていた。ウース・ゲリッグそのひとは、一週間あまり先に進んでいるだろう」

p311

彼の話しとは要するに、亡霊の森に航空士と共に墜落したという事実、二人は飢えと恐怖に苛まれつつ、ライホープの森のようなうっそうとした気味の悪い森をさまよいあるいたという事実、それだけのことである。

p325

「あそこはラヴォンディスと呼ばれている」と僕は言った。

 彼は片手を横腹にあて、剣を杖がわりにしてやっと足を踏み出す。

「名前なんて勝手につけるがいいんだ」と彼は言った。「あそこは氷河時代なんだよ。一万年前にブリテンをおおっていた氷河期だ!」

p338 山岸真による解説

 イングランドの片田舎に、ひっそりとたたずむ森がある。走れば一時間足らずで一周できる森は、じつはその中心部に広大な異界を隠していた‥。本書は、その森の入口に住み、異界と深い関りをもつことになる青年スティーブンと彼の一家の物語であり、異界と人間世界のあいだの秘密を語った、壮大で神秘的なファンタジーである。