5月のNHK杯囲碁トーナメント

 5月4日は、令和の平明流、大竹優七段と、上野梨紗女流棋聖です。

 解説は待望の鈴木歩七段です。

 鈴木歩先生が再三指摘していましたが、「判りやすい手で勝てる」というのは形勢判断がきわめて明るいからとのこと。「見ていて勉強になります」は同じプロ同士で最大限の誉め言葉と思って聞きました。実際、筆者も見ていて、いつの間にか大竹君の勝率が80%を越えていて、一体どこでそんなによくなったのだろうと巻き戻しましたが、特に梨紗ちゃんが悪い手を打った様子もなく、大竹君が絶妙手を打ったということでもなく、平明な手でじわじわと勝勢になっているのを見て狐につままれたような思いがしました。

 しかし、白の大模様に黒が打ち込んで左上に手を付けて行った辺りから険しくなり、解説者の腕の見せ所となりましたが、鈴木先生はそれほど剛腕で鳴らしてはいませんが、さすがに手が見えるものだと感心して見ておりました。

 最後まで作りましたが、AIの言う通りにかなりの大差での白勝利となりました。

 この山の隣はすでに終わっている横塚先生です。

 鈴木先生の解説は、二年ぶりの登場でしたが、非常に良かったです。鈴木先生も毎年のレギュラーで良いのではないかと。別に女流棋士の対局に限定する必要もないと思いますし。

 11日は、「今季は優勝を狙いたい」と血気盛んな19才、福岡航太朗七段と、初出場の張端傑六段。

 張六段は寡聞にしてまったく存じ上げませんでした。そもそも、日本の囲碁界に張先生がたくさんいて、張栩九段、その二人娘の心澄さん、心春さん、名人戦にも入った実績のある張豊猷九段と、合計5人もいる訳で、「張先生が最近調子がいい」と言われても誰のことだか誤認しかねないのです。

 福岡七段は、今期の名人戦リーグで5連勝して一気に本命の一角に踊り出し、NHK杯優勝を狙うというのはビッグマウスではありません。

 碁の方は四隅全部が星で、相次いで互いにダイレクト三々に入り合うという現代的な布石。中盤から険しくなり、手が見える福岡七段が手処を制して優勢となりましたが、少しやり過ぎて一瞬危ない場面もあったようです。

 解説は銘琬先生でしたが、落ち着いた解説ぶりでした。

 18日は、元記録係の小山空也七段と、関西棋院の洪爽義五段でした。

 解説は蘇陽国九段。

 対局者との交流について聞かれて、洪さんとはアマ強豪時代の頃の方が縁があったと説明されていて、そうなのかと思いました。当時はプロでも、張、山下クラスでないと確実に洪さんを止められませんでしたというのを聞いて、じゃあその頃の方が今より強かったんだなと思いました。だとすると、プロ棋士のプロっていうのはどういう意味があるのでしょうね。お金をもらえるということだけ?

 碁の方は解説者の紹介通り、二人とも厚い着手を好んだことから大きな事件にならずに中盤まで進みました。左辺の白模様が大きくまとまって白リードとなり、黒はどこかで仕掛ける必要があるかと見えましたが、洪先生はどこまでも手厚く手厚く。

 中盤戦も終わりに差し掛かって、白の大石を右辺と中央から左辺の二つに分断する機会が訪れて、ついに黒が決起しました。にわかに白が薄くなり、全部は助けられないので、すわ逆転かと思いましたが、AIの形勢判断は動かず。AIは、最初から尻尾は切り取られる前提で計算して白の楽勝と見ていたようで、どうもそれで当りだったようです。結果として黒の投了図となりました。

 蘇陽国九段はしきりに自分は読みが弱いと強調していましたが、いやしくも権威者として解説に来ているのだから、もうちょっと歯切れよく説明して欲しいものです。

 25日は、安達七段と結城九段です。

 安達先生は、三大リーグ戦とか挑戦手合いに出てきたことがなく、キャラも立っていないので非常に地味な印象を持っています。

 結城九段は、一時期は6年間で5回NHK杯で優勝するほど早碁には強い関西棋院の猛者ですが、関西だとやはり少し露出が低いでしょうか。

 解説は鈴木伸二八段でした。

 冒頭、結城先生が一時期ほどは活躍できていないことに対する自嘲の意味をこめて、「去年は久しぶりに運よく一回戦を勝てましたが、今年も頑張りたいと思います」と言われたら、鈴木解説者が「去年負けた相手って僕なんですけどね。相手が良かったんですよね」と言われて、二人で自分の価値を低め合ってどうするんだと思いながら聞いていました。

 碁の方は四隅とも小目。そして、全部に掛かり合う総掛かりとなって、近年では珍しいと思いました。星に打って、ダイレクト三々に入るというのが当然の時代になってしまって久しいですから。

 鈴木解説者は院生時代がかぶっているのだそうで、安達七段について「昔から非常に研究熱心で、普通は出てこないような変化まで研究していて当時は馬鹿にされていました」と紹介しているのは、本気なのか愛情の裏返しか。

 いずれにせよ総掛かりから上辺を微妙な位置に開くのが研究の範疇だとすると、打っている相手は敵地に踏みこむようで嫌だろうなと思ってみていました。

 これと言って大事件が起きた訳ではありませんが、白の結城九段がじわじわと優勢を築いていき安達七段を降ろしました。

 この山は二回戦に井山王座がシードで待っているので、非常に悪い山に当たったものだと思いましたが。結城先生で、しかもNHK杯ならもしかして勝つかも知れませんが。

 余談ですが、安田初段が5月に2勝しました。

 佐野貴詔八段にいずれも勝ちました。次の鈴川初段戦も流れに乗って勝てるかと思いましたが、ここで負けてしまって、勝てそうな相手に確実に勝てる力はまだないのかとまたガッカリ。まあ、去年は一年で2勝しかできなかったので、5月で2勝は順調と言えなくもないですが。