ショートゲームレビュー:南極未来戦争(つづき)

個人的な意見ではあるが、SPIの幾多の傑作の中でいまなお傑作と呼びえるゲームとしては本作が一番バランスが良いのではないかという気がする。
某所にも書いたのだが、本作の良さはバランスである。
つまり、プレイアビリティ、オリジナリティ、リアリティの三種の要素がいちばんバランス良く今に至るも評価できるということである。
SPIのゲームで素晴らしいものは枚挙に暇がないが、巨大すぎたりルールが複雑すぎたりしてプレイアビリティが悪いものというのがかなりある気がする。前者としてはザネクストウォー、後者としてはスタートレーダーが挙げられるだろう。また、WW2や南北戦争のメジャータイトルだと、四半世紀を経てベターな後継ゲームに恵まれ今となってはSPIの作品を発掘するには及ばなくなっているものもある。テリブルスイフトソードなどはこの例だろうか。最後に、SPI時代はまだゲームデザイン技術が発達段階だったので、題材とマッチングしたゲームシステムの選択という点では最適でなかったものもあるように思う。シティファイトなどはその例だと思う。
南極未来戦争は、かなりアクの強いシステムではあるがユニット密度が低くプレイアビリティは確保されている。
題材が突飛なためもあるが、同じようなテーマの作品は、同年代のメタゲーミングの「アイスウォー」と、近年のサヴィタゲームズからの「アンタークティカ」くらいしかなく、どちらもライヴァルとしては見劣りがするので今なお本作が同テーマの最高傑作と容易に言い切れる。
最後に突飛な題材ではあるが、その題材にふさわしいゲームデザインがされている点でリアリティもオリジナリティも優れていると思う。要するに似たような何処にでもあるウォーゲームになっていないのが素晴らしいと思う。

様々なガジェット

ゲームの概要を昨日説明したので、今日はそのほかにも様々ある特徴的な部分をいくつか説明しておこう。
先ず勝利条件における人命重視の姿勢の強さが特徴的である。このゲームでは、増援ユニットを買うとマイナスVP、自軍ユニットが損失するとマイナスVPということで、戦争を続けていくと戦果が上がらない限りどんどんマイナスになっていく構造になっている。敵の基地を奪った時だけプラスのVPが得られるのだが、どのくらいのバランスに勝敗ラインがあるかの見定めによっては、増援を請わずに防御に専念するのが作戦的に良いということすら在り得る。また、フォッグオブウォーが強いことと相俟って特徴的なのは、戦闘開始時点で蓋を開けて勝てそうになかったら降伏することができるようになっている。降伏すると戦って全滅する場合の五分の一の勝利得点マイナスで済むので、潔い降伏は重要な意思決定になっている。
フォッグオブウォーが強いので、相手の戦力や意図を知るための索敵が非常に重要。これが本作をソロプレイ不能ゲームにしている。衛星偵察は近未来の南極戦ならではのルールだが、キラー衛星のコストパフォーマンスが良いので偵察衛星は長生きできない。しかし、墜落するまでに得られる情報の価値が果たしてコストに見合うかどうかである。もちろん相手にキラー衛星の支出を強いているので、自分だけ一方的に支払っている訳ではないというのが救いなのだが‥。他にはEW機や、GS機による航空索敵があり、当然の如く戦闘機による迎撃や護衛が可能になっている。このゲームでは、各航空ユニットは索敵段階と、地上支援段階のそれぞれにペナルティなく両方とも飛べるようになっているので、航空機の使い出はすごくある。もちろん遭遇すれば消耗も激しいのでコストの高さもあって負担は大きい。とは言えコストパフォーマンス重視で足の遅い地上部隊だけで編成すると、索敵されて意図を見破られてしまい、目的地に着く頃には輸送機で増援されて難攻不落になっているというようなことも起こってしまい兼ねないので、制空権を一方的に譲り渡してしまう訳にも行かないところだ。制空権さえあれば、空挺降下や地上支援で空から大地を制圧することも可能だ。ただし、コストは恐ろしいことになりそうだが。
こうした航空支援の問題を考える上で南極ならではの敵がもう一ついる。天候である。天候が悪いときには降下作戦はすぐに困難になり、さらに対地支援もできなくなってしまうこともある。

SFゲーム

冒頭に書いたが、本来このゲームはSFゲームの企画として提案されて出発した。そこで、最終製品にもそれは反映されている。人類の南極での活動が地底人を長い冬眠(?)から呼び覚ましてしまうという設定である。アメリカ対ソビエトの構図に地底人が参入した三つ巴戦となり、アメリカ対ソビエトの結果がドローの場合は地底人が勝利するという構図になっている。
ただし、実際にプレイしていないので断言はしがたいが、地底人ルールは奇想天外というほどではなく、割と人類ユニットと近い制約の中で行動するようになっているようだ。反重力ユニットや超能力者などのSFゲームならではの特殊ユニットも登場するが、ウォーゲームとしてのフレームワークを壊さない程度のところで抑えているように感じられる。