☆少年時代を読む

bqsfgame2005-08-25

世界幻想文学賞づいた5月に古本屋で購入しておいた文春文庫版。読みたいと思っていたが果たせないでいる内にビレッジブックスから復刊された。復刊されるからには相当に良い本に違いないと思い、急遽、予定を繰り上げて読んで見た。
読んだ感想としては、素晴らしい本だと思った。個人的には、マイケル・コニイの「ブロントメク!」と共に折に触れて読み返したい懐かしさを感じさせてくれる温かみのある作品世界がページの中にあった。
どちらの作品もそうだが、少年時代・青年時代の熱気と未知数に溢れた世界や時代の手触りがあって、作品世界の中にいるのがとても心地よい。「ブロントメク!」のそれは、架空の植民惑星で紛れもなくSF。「少年時代」のそれはアメリカの1960年代でホラーの香りが随所に溢れている。道具立てはかなり違うのだが、そこにある少年時代、青春時代の感覚というのは共通で、そしてそれが失われていくという作品の終幕も共通している。
山田正紀の「アフロディーテ」も似たようなテイストがあるが、青春時代のボリュームが少なく、それ以後の分量が多いので、この2作品ほどには思い入れられず惜しい気がした。
時代の狭間に失われてしまった懐かしい時代という意味では、「ヴァーミリオンサンズ」やコニイの連作にも通じるものがあるが、こちらは大人のモラトリアムみたいなところがあって、映画「紅の豚」に近いテイスト。「少年時代」のそれは、タイトルの通りにもっと少年という時代のそれに満ちている。世界が未知数のものに溢れていて、大人にとっては流してしまうような出来事が一大事で、大人には見えないものが見えていた時代。
川に住む海獣オールドモーゼズ、ザ・レイディとライトフットさんたち、伝説のスノーダウン、見世物小屋から逃げ出したロストワールドからやってきたトリケラトプス、ザ・レイディからもらった自転車のロケット。これらはいずれも神秘的で、それでいてどこか少年時代の主人公に親しげな存在。
そして、現実の人間でもっと主人公に敵意に満ちた存在もたくさん登場してくる。少年時代は事件に満ちていて、一年はとてもとても長かった。夏休みの時期に読むのはベストなタイミングだったかも知れない。