○蝉の女王を読む

bqsfgame2006-05-18

サイバーパンクの両雄の一方、ブルース・スターリングサイバーパンクムーブメントの代表的短編集。日本オリジナル1988年。
正直に言うと一世を風靡したサイバーパンクだが個人的には、ちっとも面白いと思わなかった。ギブスンもスターリングも読みにくかったと言う記憶しかない。
しかし、今回、読み直してみたら意外なほど楽しくスイスイと読めた。読みにくかった理由がギブスンとスターリングとでは違っていて、スターリングの場合には遺伝子改造した工作者や機械部品を移植した機械主義者と言う人類の未来像がおぞましくてスプラッターが苦手な自分には気色悪かったというのが大きかったかと思う。今ではこうしたアイテムはSFでは当たり前になってしまったので、こちらも慣れてしまい抵抗が薄くなったのだと思う。そうしてみると、むしろ「巣」や「スパイダーローズ」はなかなかの傑作短編だった。表題作はイマイチだと思うが、「火星の神の庭」も合格点だと思う。
後知恵ではあるが、これ以前は未来であっても人間は今の人間と大差ないような未来像の作品が多かった訳で、スターリングが提示したのは技術の進歩がもたらす(当時は)ショッキングではあったがSFとしては想像してしかるべき未来人間像だったと言う気もする。サイバーパンクの当時の騒ぎを知らない人に、この本の当時の衝撃度を説明するのは今となっては難しいくらいかも知れない。しかし、個人的には今になってまとめて読んで見て当時の拒否反応を拭って評価することができて良かったと思う。