☆十月の悪夢を読む

bqsfgame2008-03-31

1992年にNHKスペシャルとして放映されたキューバ危機の記録。
放送当時かなり話題になったのでご記憶の方も多いかと思う。
キューバ危機の1962年から30年目にして、当事者国の一つであるキューバが真相を知りたいと言う圧力、アメリカでの情報公開の進展、ソビエト連邦崩壊による情報の開示が重なって、従来より大幅に当事者資料が開いた状態で作成されたドキュメンタリーだ。
それまではケネディ政権の事態への対応は危機管理の見本とされ、そもそもキューバ危機はソビエト連邦が秘密裡にキューバに核ミサイルを持ち込んだ謀略がキッカケとされていた。
ところが本書を読むと、事態が無事に収束したのは多分に幸運の成せる業だったことが分かり、アメリカ側のキューバに対する工作が事態を招いた部分が多分にあることもわかってくる。
事態の当事者の一人、カストロキューバ首相が亡くなり、事態をトップで掌握していた人はついに誰もいなくなってしまった。これ以上さらに真実が開いてくることは期待しがたい気がするので、本書がキューバ危機の決定版ということになろう。
最終的にミサイルの撤退を決めたフルシチョフは、第二次大戦のキーパーソンの一人スターリンと、長期政権でミスターソビエトと呼ぶべきブレジネフに挟まれて今となっては印象が薄い。しかし、本書を読むと、世界を危機に晒す事態に当って、面子も因縁も省みず無条件にミサイルを撤収した良識ある判断をした彼に感謝してやまない。世界は一つしかなく、賭け代えがないのだから。