☆浴槽で発見された日記を読む

久々のレム。

「完全な真空」と「金星応答なし」を続けて読んでから干支が一周してしまいました。恐ろしいことです。

翻訳作品集成で、「なにがいいのかわからないが好き」と書かれているが、ほぼ同感。

ある時期からレムは、メタフィクションを数多く書いた。これもその一つと言えよう。遠未来からの視点で、その時代に発見された、我々の近未来の日記に関する解説書。遠未来までのどこかで「紙が全滅して文明が崩壊状態に陥る危機があった」という設定。そんな中で、溶岩で封止されたペンタゴンの浴槽で発見されたパピルスに書かれた貴重な資料が見つかった。という経緯と、同資料に対する遠未来の学者たちの諸説が冒頭に簡潔にまとまっている。この部分が、本書がSFに分類される理由である。

そして、その日記そのものが採録されている。

で、この日記がペンタゴンと言う疑心暗鬼の軍事組織の中に迷い込んで、自分が与えられた任務すらも判らぬままにペンタゴンを彷徨うカフカの「城」ばりの不条理小説になっている。

という厄介な構造の作品だが、意外なことにリーダビリティは高い。

なにが面白いか良く判らないが、ペンタゴンの中を彷徨う物語にはスパイ小説のような緊張感があって、ページをめくらせてくれる。そこが単に意味不明なだけの不条理小説と違う所か。テンポ良く読み進められると、物語として論理的な整合が取れていなくとも、存外、楽しい読書時間を形成できるという奇妙な実例。

ところで、本書はキューバ危機前夜の1961年の発行。ペンタゴンの疑心暗鬼の迷走振りは、レムの「冷戦に踊る大国に対する批判の表れ」なのかと思うがいかがだろうか。

本書を楽しく読めたので、昔は読んでも良く判らなかった「捜査」とか「枯草熱」も、読み直すと再発見があるのかもと思ったり。後者はレムコレクションに収録されたので、図書館にあるだろうか。「捜査」は実家にあるかなぁ?

そうそう、そもそも本書は件のSF宝石チェックリスト再読で引っ掛かったものの第1号。

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