☆伝授者を読む

サンリオSF文庫、再挑戦です。

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1980年の刊行ですから39年前です。新刊で棚に並んでいる表紙の爽やかさでジャケット買いでした。プリーストの本としては創元の「スペースマシン」を先に読んでいたのですが、あまりそのことを想起しなかったように思います。

表紙は爽やかで、内容的にも正しい表紙絵です。でも、内容が爽やかかと言われると、そこは違っています。

三部構成ですが、第一部の監獄は、不条理文学の典型。マットグロッソのジャングルの奥地に、クラップサークルのような円形の草地が発見されます。草地に入って後ろを見ると、ジャングルは跡形もなく一面の草原。

草原の中央にある監獄と呼ばれる建物に入ると、いつの間にか厳しい尋問を受けるようになります。尋問に使われる手が生えている机。建物の外に出てみると、外壁には耳が生えています。

第二部の病院では、病院送りになって治療されます。そこで、誤認監禁だったことが判明し、なぜ監禁されるようになったかと言う謎解きがされます。

件の草原は一方通行の未来側から開けたタイムトンネルで、主人公は自分の時代の直後に起きた第三次世界大戦で使われた神経ガスの開発者だというのです。そして、未来へ連れられて、解毒方法の研究を要請されたのです。

第三部では、主人公は問題の神経ガスを開発していた自分の時代の研究室に戻ります。

不条理文学の見せ掛けで始まりましたが、ちゃんと謎解きがされます。背後には、SFと呼ぶに足る設定がきちんとされています。

リーダビリティは、記憶に在ったよりも高く、さくさく読み終われました。「浴槽で発見された日記」でも思ったのですが、筆者の不条理文学に対する耐性が高くなったのかもしれません(笑)。

こうして改めて読んでみて良かったと感じました。次は「スペースマシン」でしょうか。

いや、新刊の「隣接界」も買ってあるので、文庫版が出てしまったりしないうちに読まねばならないのですが。

プリーストが読み切れないなんて、なんと贅沢なことでしょうか。

サンリオ文庫版を読んで気付いたのですが、「昏れゆく島へのフーガ(第二長編)」って、翻訳予定に入っていたのですね。未だに訳されませんが、なにかワケアリなのでしょうか? 一説によると出版されなかったが訳了はしていたとか?