○ベータ2のバラードを読む

bqsfgame2009-02-20

「ゴーレム100」が思わしくなかったので、同じシリーズの本作品を読むのには勇気が行った。
しかし、これは期待せずに読むことになったのが良かったのか、まずまずの出来栄えだと言う印象を持った。
「ベータ2のバラード」は、ディレーニイの出世前のエースダブル作品。しかし、意外なほどに古き良きSFを感じさせる中編作品だった。追い越されてしまった世代宇宙船というのは、SFならではの悲劇的なモチーフ。それを、独自固有の文化を研究する学生が、研修テーマとして与えられて‥という作品。世代宇宙船が遭遇したものは一体??? 御代は見てのお帰りとするが、傑作と言うほどではないが、ドロップアウトアウトサイダーに親愛なる視点を持つディレーニイの独特のテイストが光る作品だと思う。
ハートフォード手稿」は、なんとカウパー作品である。サンリオ文庫の「クローン」を読んだきりなのだが、改めてこうして紹介されて読んでみると、伝統的なイギリス作家の落ち着いたタッチと、SFらしい切り出しの叙情的なモチーフがミックスされた良い中堅作家だと思う。もう少し評価され、もっと紹介が進んでも良かったのではないかという気がする。本作品は、ネタ的には「ドゥームズデイブック」と同じなので、そこらへんが今の紹介になってしまうと、評価されにくい点の一つにもなってしまっているように思う。
「時の探検家たち」は、なんとウェルズ先生。「タイムマシン」の原型となった短編と言うことだが、改稿が激しく完全に別作品。本作品を、このニューウェーブアンソロジーに並べて読まされると、なるほどウェルズはSFをパルプフィクションではなく、もっと文学性やメッセージ性の高いところで描いていたことが再認識され、ニューウェーブはイギリスにおいてはウェルズの意思のリバイバルという捉え方もし得ることが理解される。タイムマシンは、プリーストの「スペースマシン」、バクスターの「タイムシップ」、そして前の「ハートフォード手稿」など、オマージュ作品を多く生んだが、その理由はSFの出発点でありながら、その後の発展の可能性をちゃんと内在していたからなのかも知れない。
「プリティー・マネー・マギー・アイズ」は、エリスンらしい短編。ニューウェーブのアンソロジーに入っている意義は個人的には感じなかったが、同じ時代にアメリカで何が起こっていたのかの証人と言ったところか。個人的なイメージでは、エリスンは何処かサザンオールスターズに似ているように思う。ワイルドに見せているけれども、実はしんみりバラードなのじゃないか‥。
ベイリーの「四色問題」とロバーツの「降誕祭前夜」は、正直に言うがガッカリだった。特にロバーツは期待していただけに残念。