○改体者を読む

bqsfgame2014-10-03

「日本SF全集‥」でフックした一冊。
豊田有恒の初期作品集。
極めて意外だったが、6編全部が宇宙船か植民惑星を舞台にした宇宙物のハードSF。角川文庫版を読んだが、解説はなんと堀晃と言う念の入り用である。
豊田作品と言うと、ポール・アンダーソンの「タイムパトロール」へのオマージュから、時間ものや歴史改変ものの印象が強い。ポジション的には、星、小松、筒井の御三家に続いて、光瀬、眉村、半村、平井らと第一世代の厚みを形成する作家の一人だと思う。
ただ、光瀬と言えば未来史、眉村と言えばインサイダーSF、半村と言えば伝奇、平井と言えば幻魔大戦と言うような代名詞があるのに対して、豊田はSF小説では決定的なインパクトを持つ作品が出ていない。
むしろ、豊田が日本SF界に大きな影響を与えたのは、アニメ脚本や設定考証の世界であろう。もっとも有名であり、また後世への影響も大きいであろう仕事は、「宇宙戦艦ヤマト」の原案・設定である。今にして思えば、バラン星のバラノドンも、ビーメラ星の昆虫人間も豊田作品だったのかと思い当たる。
閑話休題
本書は「■■者」で統一された6編からなる。
表題作の「改体者」は、いわゆるサイボーグのことなのだが、なんで漢字書きするのかは読んでのお楽しみ‥(^_^; 飛行中に追い越されてしまう世代宇宙船が進歩した子孫と遭遇すると言う本格SF設定の一編。
「植民者」はタイトルだけだとどうにでも取れるような話しだが、異様に過酷な条件で文句も言わずに働く植民惑星の労働者たちの正体をバックボーンに、生き別れた母を探す宇宙飛行士の再会を描く。
「帰還者」は異形の姿になって帰ってきた宇宙飛行士たちを描く。言って見ればジャミラな訳だが、此処では宇宙飛行士たちが自らの意思決定で異形の姿を選ばざるを得なかった所が重苦しい。
「殺人者」はタイトルだけではSFでなくてもおかしくないが、密閉された宇宙船内を舞台にした連続殺人。いわゆる「そして誰もいなくなった」なのだが、犯人の正体と動機がいかにもSFになっている。
「襲撃者」も植民惑星を舞台にしているが、どう見ても文明発達度で見劣りする原住民の住む惑星に到着した先行船は全滅。調査・救援のために行ったが、原住民は物質文明で劣るものの妖術としか見えない多様な超能力を使って襲ってくる。まるっきり、ジャック・ヴァンスじゃないかと思うが、原住民の死体を解剖した結果に調査隊は驚くことになる。
「絶滅者」は、豊田のハヤカワSFコンテスト佳作の改題。火星に住む唯一の生物、砂漠蛙の恐るべき真の姿に植民者たちは危機に陥る。
堀晃の解説にもあるが、本格SF長編になりそうなアイデアを、惜しげもなく注ぎ込んだ6作品がずらりと並ぶと壮観。豊田がいかにSFを良く勉強し消化できていたかの見本のようだ。こうした蓄積があってこそ、諸作品の脚本、設定を次々とこなすことができたのだろうと思う。
こうしたアイデアを使って読み応えのある長編をいくつか物にしていれば豊田のSF作家としての評価は大きく変わっていたかも知れない。しかし、それはそれで、あの「宇宙戦艦ヤマト」なかりせば、日本のSFシーンはそれこそ全然違ってしまうのであるが‥。
豊田作品集は、近日中にもう一冊、読む予定にしている。