☆不老不死プロジェクトを読む

bqsfgame2014-05-01

「ガラスの塔」に続いて、ニュー・シルヴァーバーグの一作。本書は絶筆宣言の書に当り、ニュー・シルヴァーバーグの最後の一作だった。周知の通り、シルヴァーバーグは「ヴァレンタイン卿の城」で華々しく復活してしまうのだが‥(^_^;
邦題はネタバレになっていて、あまり良くないと思う。原題は、「炉の中のシャデラック」である。シャデラックは、旧約聖書のダニエル書に登場する「ネブカドネザル2世によって炉の中に投げ込まれたが神の御加護で無傷で済んだという3人のユダヤ人」の一人である。
以下はネタバレ注意。
本書の世界は、ウィルス戦争による臓器腐敗病が蔓延している。従来の国家は崩壊し、世界はジンギス・マオの柔らかい専制の元に置かれて辛うじて秩序を保っている。このジンギス・マオが死ぬと大変なことになるため、彼を生かして置くための大袈裟な医療チームが組まれている。それでも老化は防げないため、彼の意思を継げるロボットを作ろうとするタロス計画。彼の全身細胞を賦活して不死化しようとするフェニックス計画。彼の心を若い人間に移植しようとするアヴァター計画。の3つが進められている。
主人公はマオの主治医であるシャデラック。
彼は上述の3つの計画を統括していると同時に、マオの健康状態を常時監視している。
物語は一見、上述の科学プロジェクトマネージメント風に始まる。事態が急変するのは、アヴァター計画で予定していた移植先の若い人間が自殺してしまうことから始まる。そして、その後、突然、アヴァター計画の責任者がシャデラックに対して余所余所しくなる。タロス計画の責任者がシャデラックに漏らしたことは、なんと彼がアヴァター計画の移植対象の候補者になったと言うのだ。
かくてシャデラックは、自分の身を守るために何ができるかを考え始める‥。
設定はバリバリのSF。
内容的には人物の内面を深く掘り下げて読み応え十分。
そういう意味では、「ガラスの塔」と同じ作りで、ニュー・シルヴァーバーグの代表作の一つである。残念なことだが、本書も絶版のようである。
余談だが、本書は改行が少なく、ページを開くと「活字が豆腐」になっていて、読む気を挫くこと夥しい。その意味でリーダビリティは悪いのだが、設定が呑み込めて物語が動き出すと、サクサク進むようになる。物語の魅力は高い作品である。