〇帝国という名の記憶を読む

2020年のヒューゴー長編賞。2021年の最後になったが邦訳された。
図書館に入荷したので読んでみました。

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うーん、かなり読みにくい部類に入ると思います。登場人物が多い、しかも識別性が悪い。物語の展開も宮廷陰謀劇路線で、登場人物がなかなか本音や真相を語ってくれないので理解しにくいです。
ざっくり言ってしまうと、
辺境のステーションの帝国派遣大使の話しです。
このステーション独自の技術で、前任者の記憶と人格を引き継げます。ところが、今回は前任者が帝国で変死(おそらく他殺)し、しかも記憶履歴のアップデートをさぼっていたので15年分もギャップがある記憶しか引き継げません。
一方の帝国は、現皇帝の老衰死が近付いており、そのため上記人格引継ぎ技術を入手して皇帝を身内(クローン)の若い肉体に移植しようという陰謀を巡らせています。その首謀者は皇帝自身なのか、側近ナンバー1か、それとも有力大臣なのか。
それとは別に軍人で人気のある将軍が臣民の信任により戴冠しようという動きもあり、これに伴う内戦の危機も訪れています。
そうした諸々が並行して動いていき、その中を主人公と相棒が潜り抜けていきます。
こう書くと結構、面白そうなのですが、書き方はあまり良くありません。
作者はCJチェリイの影響下にあるということで、なるほどと思います。「ダウンビロウステーション」も、同じようにあらすじをまとめると面白そうなのに現物は読みにくくて閉口したものです。
ただ、チェリイ作品でも「色褪せた太陽」三部作よりは読みやすく理解しやすいので、それほどの難物という訳でもありません。皆さん、頑張って読んでください。
不勉強にして本作と続編のタイトルがタキトゥスの「アグリコラ」から来ていることを知りませんでした。
ローマ帝国の所業をして、「彼らは破壊と、殺戮と、略奪を、偽って「帝国」と呼び、荒涼たる世界を作り上げたとき、それをごまかして「平和」と名づける」の部分を、それぞれ引用しているのだそうです。
帝国のイメージが星間文明でありながら古代テイスト満載なのは、意図して東ローマ帝国(作者の専攻)を模しているからのようです。