〇空襲警報を読む

 ベストオブウィリス2冊目です。

 「クリアリー家からの手紙」、アフターホローコーストものです。コロラドの穏やかな田舎の風景が、郵便局まで行って見つけてしまったシカゴの友人からの手紙によって破られる話しです。

 「空襲警報」、記念すべきダンワージー教授シリーズの第1作。主人公のバーソロミューは、聖パウロの研究に行く予定が間違って複数形にされてしまい、空襲下のセントポール大聖堂に行くことに。そこで、ファイアーウォッチ:火災警戒員となって屋根に落ちた焼夷弾の初期消火に明け暮れます。挙動の妖しい監視員を見つけて、すわドイツからの工作員かと疑いますが、それを監視する挙動が疑われて逆にナチの工作員扱いされてしまいます。

 「マーブルアーチの風」地下鉄の駅で列車の入線を待っていると異臭のする強い風に煽られるという話しです。異臭の原因を探るために他の駅でも起きるかを地下鉄網を右往左往してチェックしていき、空襲されて死者の出た地下鉄駅で起こるらしいということを突き止めますが他の人は感じないらしく誰も信じてくれないという話しです。これに現実での土曜日の夕方に二家族で見に行くミュージカルのチケットを調達する任務が絡み合って焦燥感に追われながらチケット探しをします。ロンドンって、ブロードウェイのTKTSのような統合的なリセールサービスがないので、各演目の劇場に行って探すのでいかにも大変そうです。

 まぁ、ロンドンの地下鉄を乗り回す話しとして整理して良いと思います。

 「ナイルに死す」は、同題のクリスティー作品のオマージュ。ナイルを旅する一行が、実は自分たちはもう死んでいて黄泉への航海をしているのではないかと疑う話しです。

 「最後のウィネベーゴ」は、短編集を締めくくる大作。同題の日本オリジナル短編集でも読みましたが、味のある中編です。既に絶滅してしまった犬、それを踏まえて絶滅危惧動物を轢き殺した運転手を特定して罰しようとする委員会(最後まで正式名称は出てこず委員会です)、絶滅しかかっているキャンピングカー、ウィネベーゴの最後の一台、個人の履歴・治療歴などを一括管理する巨大データベースのライフライン、長距離高速道路と一般道路が厳密に分離され一般自家用車は高速道路に入れなくなっている車社会などが登場して、相互に絡み合いながら悲しい結末へと向かいます。

 あらすじをあまり書くと興覚めになりそうなので、後は現物を是非とも読んでください。

 個人的には河出書房新社版の方が本としてのデザインセンスが良いと思います。