ツォンパントリを読む

 「中国・SF・革命」です。図書館。

 その中の一編が佐藤究の「ツォンパントリ」です。

 ツォンパントリというのは、こちら。

 アステカ文明の生贄の儀式で使われた祭壇にある髑髏の並んだ壁です。

 アステカネタということで、「テスカトリポカ」つながりで読んでみたいと思っていたのですが、意想外のアンソロジーに収録されていて図書館様です。

 革命家の孫文が日本にやってきて講演する話しです。

 黒人奴隷が禁止されたアメリカで、ゴールドラッシュや、大陸横断鉄道を支えるために労働力が必要とされ、時の清朝漢民族を苦力として北米に大量に送り込んだことを、漢民族として清朝を倒した孫文が糾弾する話しです。

 イギリスはインドで阿片を作って清朝に売り込み、最後にはアヘン戦争まで起こしました。その事実を知っている苦力は北米大陸で阿片を作って白人に売ります。それを学習したスペイン人がそのビジネスを乗っ取ってアメリカを逆搾取するという不幸の輪廻を食い止めようという志の話しです。

 そういう意味ではいかにも佐藤究なのですが、本編は講演に至る孫文の旅だけなので、あまり血腥くなくさらりと読めます。

p175

 眼鏡をかけてふたたび夜空を見上げた。髑髏の数は二つに増えていた。なおも目を凝らすと、左右にひとつまたひとつと増えていき、上と下にも増えていく。

p191

「問題は、この遊戯だよ」

 そう言う頭山の目線を追って、孫文ははじめて円卓の上を見た。清潔な布の敷かれた平面の上に置いてあるのは、正方形をした木製の盤だった。将棋の盤より大きく、十字架が彫られているのかと思ったが、十字の四つの端は丸みを帯び、内側はいくつもの升目で区切られている。

「これはなんですか?」

「パトリです。アステカに伝わっていたボードゲームで、この遊戯に負ければ自分を奴隷にできるという権利や命までを賭けました」