☆母の記憶にを読む

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ケン・リュウの日本オリジナル短編集第2弾です。

途中まで読んでスローダウンし、再度、最初から読み直しました。

「ウスリー羆」満州で人間に変身できる巨大羆を追う話しです。ちょっとした伝奇ものです。なかなか迫力あります。

「草を結びて環をくわえん」因果応報の意味の漢語熟語だそうです。清朝の侵攻下にある漢民族たちの物語。娼婦たちが自分たちの才覚で生き延びていく話しですが、なかなか読ませます。

「母の記憶に」表題作。不治の病に掛かったため冷凍睡眠で定期的に目覚めて娘の成長を見守ることにした母。やがて娘が実年齢で追い越してしまいます。傑作中編「バースデイ」と通じるテイストの佳作。

「存在」実際に介護に赴けない人のためのリモート介護システムのお話し。このシステムを通じて親の死に目を看取ることの意味を問い掛ける短い割に重い短編。

「レギュラー」。いわゆるハードボイルドサスペンス。保険のために客との情事を眼窩に埋め込んだレコーダーで記録している高級娼婦。その記録を恐喝のネタとして奪おうとする高級娼婦狙いの殺人鬼という道具立て。この道具立てが見えない状態からスタートして、一見、連続猟奇殺人に見える事件を解き明かしていきます。作者の他の作品と異質ですが、面白くできています。

「パーフェクトマッチ」。検索エンジンの進化系システムが、個人の生活の全ての側面に最適アドヴァイスをする時代。「実はシステムにすべてを支配されてしまっているので、システムを駆逐するべき」だと言う陰謀に主人公が巻き込まれる話しです。テクノロジーの未来に潜む恐怖譚。ある意味で古典的なSFです。

カサンドラ」は、スーパーマンのライヴァルとなるスーパーヴィランの話し。いずれ大量殺人者になる人間の未来が見えるので、その前に予防的に犯罪者を殺そうとするのですが、現行の法律に照らせばそれ自体が殺人。なので、スーパーマンと戦うことになると言う話し。タイトルはもちろんトロイの予言者からです。

「訴訟士と猿の王」。中世中国で貧民の味方をする弁護士のような主人公を描いた長めの短編です。マイク・レズニック風でしょうか。

「万味調和」。三国志の話しを引用しながら、ゴールドラッシュ時代にアイダホ準州に入植した中国人たちの暮らしを描いた中編。興味深いのですが、完成度は少し残念な感じでしょうか。

「輸送年報より長距離貨物輸送船」は、飛行船が順調に進化したオルタネートヒストリーもの。「クリムゾンスカイ」を連想するのはゲーマーの性でしょうか。

全体としてレベルは高いです。ただ、重厚な設定の作品が多く、設定を理解できたら作品が終ってしまって、また次の設定を読みこなさなければならない。そこが少々しんどい感じでしょうか。

分量も少し多すぎるかなという気がします。300ページくらいでも良いかなと個人的には思いました。