1981年にサンリオから訳出された傑作長編。
ゼラズニイと言うと、やっぱり早川さんで、あまりサンリオという感じではなかったですが、なぜかこれは唐突にサンリオから訳されました。
割と判りにくい構造の作品で、特に主人公のいない場面を記述するⅡパートは、作者がわざとランダムシャッフルして時系列をズタズタにして出してくるので理解しにくい。
さすがに編集者が一部のビニエットの入替えを指示したそうで、それが現在の形。それでも十分に判りにくいです。
全ての時空間に繋がっている「道」という構造物を主人公が旅するロードムービーみたいなⅠパートが主線。これに、主人公を暗殺すべく「黒の十殺」を宣言し、腕利きの暗殺者を集めて順に仕掛ける主人公のかつての相棒側のもろもろを描くⅡパートが時系列ズタズタで挿入されているという。
暗殺者はどれもキャラが立っているのですが十人全員は揃っていません。揃えて欲しかった気もしますが、キャラが弱いのが混ざるくらいならこれで良いのかも知れません。
訳は「ブロントメク!」と同じ遠山俊征さん。
p62
「あなたが、霧のなかを歩いている。あなたが死にむかっているんで、霧が濃くなっていくわ。なのに、あなたはそれを望んでいるのよ!まえに十羽の黒い鳥があなたを追いかけているのを見たけど
いまは九羽が」
「黒の十殺だ!」レッドが、おしころした声で言った。「仕掛けたのは、だれだ?」
p71
「‥わたしは、マンダメイ。焼き物をつくっています。ちょっと失礼」
「どうぞごゆっくり」にこやかな顔で、ジャンは言った。「マンダメイ名人のお仕事ぶりを拝見できるとは、じつにたのしいことです」
p75
「時間というものが、出口や入口がたくさんあるスーパーハイウェイで、それにはいくつものメインルートや枝道があって、その地図がしじゅうかわり、ほんのひとにぎりのものにしか出入口をみつける方法がわからないってことを、おまえ知ってるか?」
p89
つぎつぎに根こそぎにされていく雑草にあやまりながら、ティーミン・ティンは寺の庭で働いていた。小柄な男で、きれいに剃った頭が、年齢をますますわかりにくくしている。一心に鍬をふるうその動きは、鋭く、しかもしなやかだ。
p144
「や、先客がいらっしゃったとは。わたしひとりだと思っていましたよ」こう言いながら、男はレッドのテーブルに歩をはこび、手をさし出した。「ドッドといいます、マイクル・ドット」
レッドは立ち上がって、男の手を握った。
(中略)
「どういうつもりだったんだろう?」
「彼-というよりあれ、ね-あれはあなたをやっつけるつもりだったのよ。でも、あれはきっと、最初のあのときに、すっかりど肝を抜かれてしまったんだわ、あなたが自分を守るためになにか魔法を使っていると思ったのね。あれが生まれた世界には集積回路なんて言うものはなくて、ある種の魔法が使われているんだわ。あれは、あなたも魔法を使っているんだと思って、それで、それがどういうものかわからないもんで、こわがっているのよ」
p152
「ファイルなんか見たくもない。君の口から、この男について話してほしいんだ」
「名前はアーチ・シェルマン-第三次世界大戦で勲章の数がいちばん多かった兵士でして、戦争の名人です。1C半ほどさかのぼったところでみつけました」
p173
「どの殺し屋のことかね?」
「死を招く手と、あんたがえらく喜んでいたあの習慣をもった例の女だ。なんのことはない、蒸発したのだ。新しいボーイフレンドといっしょに姿を消したきり、もどってこない」
p175
「こんどは、どの代理人を使うつもりだ?」
「強いやつでなくてはいかんと思う。そう、マックスを使ってみるか。あの装甲車におさまったC24の人間の頭脳だ。あるいは、ティーミン・ティンでもいいな-しかしこいつは、ほかのみんなが失敗したときのために、とっておきたい気もする。そう、アーチはどうだ。うんそうだ‥」
p181
「いよう、アーチ」低い声がした。
「あんたとは、はじめてのような気がするが」
「そのとおり、会うのはこれがはじめてだ。だが、おまえの写真は見たことがある。おまえもたぶん、似たようなことで、おれの写真を見ているんじゃないかと思ってな」
アーチは相手の顔にじっと目をやった。
「うん、見おぼえがある。名前はなんといったかな」
「ティーミン・ティンだ」
と言う訳で6人が登場します。他に最初に登場するマンダメイよりも前に一人失敗していることが語られますので7人の暗殺者が登場したことになります。
世界中から集めた暗殺者集団と言うと、これを思い出します。