S&T282:太平洋戦争をソロプレイする

メインアーティクルを読んだ上でプレイするのはいつ以来でしょう‥(^_^;
意外なことですが、太平洋戦争全体をカバーしていません。イキケ、リマ侵攻の直前から終戦までをプレイする形になります。アントファンガスタは既にチリの制圧下にあります。
チリ軍が終始攻勢を取るゲームであり、その目標は大きく分けて盤中央部のイキケ周辺。そこからボリビア内陸部に入ったラパズ周辺、そして北部のペルーの首都リマ周辺の3つに分かれます。大雑把に言って、3つの内の2つを制圧すれば勝てます。
第1目標はイキケ周辺が妥当だと思いますが、チリ対ペルーの戦争は南北に極端に細長く、また陸路が悪いのが特徴です。地図を見るとびっくりするのですが、実は平地と言うヘクスはありません。あるのは、荒地、砂漠、山地だけなのです。このため、一番マイルドな荒地でも移動コスト2で、防御効果+1(防御側の戦闘ダイス修正)となっています。このため、陸路での侵攻はできない訳ではありませんが、非常に効率が悪くなっています(後述)。
すると海上輸送が現実的なのですが、ゲーム開始時点ではペルー軍も量こそ劣りますが最優秀艦の質では勝る海軍を持っています。このため、制海権は競合状態になっています。したがって、強襲上陸は可能なのですが、敵艦隊による迎撃を想定する必要があります。海軍ルールについては後述します。
もう一つ大きな要素はボリビアです。ボリビアは主戦場でしたが、三国の中で国力が低いため、チリが7VP取るかラパズ周辺を占領すると脱落してしまいます。ラパズ周辺はボリビア軍が防衛しているので、ラパズが陥落した時点で脱落するのは影響ありません。しかし、他の地域で7VPを獲得されてボリビアが脱落すると、ラパズ周辺も続けて陥落してしまいます。結果として雪崩状に連合軍は敗北することでしょう。ただ、ラパズ周辺以外で7VPを取るには、イキケ周辺だけでは足りないので、不足分を何処で取るか考えどころです。リマ方面へ海上進攻するか、イキケから陸路北上してアリカ方面を制圧するか。チリ軍が侵攻をどうグランドデザインするかが焦点です。これには海戦の帰趨が大きな判断要素になります。

海戦ルール

上述した通り海戦が大きな比重を占めた本戦争ですが、海戦ルールは詳細と言う訳ではありません。ただ、時代を反映した独特の雰囲気があります。
海軍はスタック単位で海へクスを航行します。海へクスは大雑把にいくつかのゾーンに分かれています。このゲームでは艦隊の移動は、一つ前のターンにスタック上に目標ゾーン番号のマーカーを裏面で置くことで計画します。したがって、計画してから実行までにタイムラグがあります。そして実行した時には、そのゾーンに向かってヘクスを辿って移動します。相手の艦隊はインターセプトを実行でき、インターセプト先のヘクスまでのヘクス数以下を1drで出せば成功し、戦闘になります。ゲーム序盤はイキケ周辺が争点で、此処にペルーも主力艦隊を駐留させている公算が高く、チリの上陸侵攻艦隊が進んでいくと迎撃されるところからゲームは開幕します。迎撃された場合に、量に勝るチリ艦隊は迎撃艦隊と同数の艦船を応戦させた上で、余分の艦船は移動を継続できます。ですので、ペルー艦隊の規模を見て余分の輸送船を十分に用意して、これに陸上部隊を積載して進めば計画に齟齬を来すことなく上陸はできます。
緒戦は上記の通りで良いのですが、実は少数精鋭のペルー艦隊と交戦するとチリ艦隊の方が損害が大きくなりがちです。結果としてチリ艦隊の数的優位はゲームの進行と共に縮小するリスクがあります。これを睨んで、どう損傷艦船を離脱させ修理するか、縮小した艦隊で上陸を強行するのか、それとも陸路で到達できる目標に切り替えていくのかをデザインします。「シェンノート最初の戦い」ほどに海戦と陸戦が緊密に連携したゲームデザインではありませんが、それでも海戦が添え物ではなく戦略的意思決定に重大な影響を持っているのが面白い所です。
海戦自体は比較的単純で、イニシアチブを判定し、イニシアチブ側が先に全艦砲撃します。次に相手が生き残った艦で砲撃します。1ラウンドで終了し、そのターンはそれ以上は両軍とも移動できません。ゲームターンはチリ軍が先攻なので、チリの艦隊を迎撃するとペルー艦隊は自分の移動ができなくなります。もっともペルー艦隊の主目的は迎撃なので、それはそれで止むを得ないのですが。砲撃は目標を決めて1drして目標の装甲値で修正し、それが砲撃艦の砲撃値以下ならヒットです。軍用艦船のほとんどは2ステップなので、1ラウンドしかない戦闘では全滅したりはしません。損傷艦は入港すれば修理可能ですが、ゲームの期間では再建や新造はできません。ですので、沈んでしまえばそれっきりです。
チリは艦数があるので撤退して修理することは現実味があります。ペルーはそうは行かないので、質的に優位にはあっても数は減っていきます。チリ艦隊に消耗戦を続けられれば、いずれ制海権はチリに奪われることになります。ただ、ゲームは全部で12ターンしかないので、その期間内で本戦略が成果を回収できるかどうかは難しい所です。

陸戦ルール

この戦争は時期的には南北戦争とWW1の間の戦争ですが、南北戦争に近く、19世紀の戦争の一つです。
冒頭に書きましたが、地形が険しいことが特徴です。それに加えてユニットには固定的な移動力がなく、移動する都度2drして大きい方の目を取って移動力とします。ですから1のゾロ目が出ると1移動力しかなく、1移動力では荒地に入れないため移動できなかったりします。山地では移動コストが4なので、山岳地帯に分け入るとしばしば移動できなくなります。その代わり、移動は1ターンに何回でもできます。ただし、ゾロ目が出ると移動中のスタックから1ステップロスしていきます。険しいアンデスの山を1ターンで走破することも確率的には可能ですが、途中で損耗が嵩んでいくことになります。ここらへんの移動の不確実性は、19世紀以前の戦争だなと感じさせます。妙な話しですが、先日プレイしてガッカリした「カイバーライフルズ」に期待していて見られなかったものが此処にはあるように思います。
戦闘は海戦と似ており1ラウンドだけ相互に撃ち合います。各ユニットは1drし、6が出るとヒットで相手スタックに損害を与えます。戦闘修整は全てのユニットのdrに効くものが多く、前述したように基本地形の荒地でさえ防御側+1でそれなりに強力です。要塞に至っては+3なので、攻撃側はかなりのダメージを受けます。チリ、ペルーの主力部隊の多くは2ステップなので、1ラウンドの戦闘で相手を掃討することは難しく、両軍が増援しながら戦闘が継続することもしばしばです。増援を送り込む話しになると、陸路にせよ海路にせよ兵站線の問題を抱えるチリ軍は苦しくなります。このため、出来る限りまとまった主力を送り込んで一気に勝ちたいのですが、そこは海軍の輸送能力と制海権の問題もあり一筋縄では行きません。
陸戦固有の問題ではありませんが、補給の問題も重要です。補給には多様な用途があり、減少陸軍の補充、全滅陸軍の再建、増援の配置、損傷艦船の修理などに使用できます。このゲームでは増援は投入可能ボックスに来るだけで自動的には盤上に現れず補給を払って配置します。この他に、移動の損耗時に補給で損耗を満たすことができますし、戦闘時に使用することで余分のdrを可能にします。
そんな訳で、良く言えば使い出があり、悪く言えば補給がないとあらゆることに支障を来すようになっています。
自軍制圧地域で防衛するペルー軍は大きな問題はありませんが、前線に精鋭を投入し、その戦闘を継続的に支援するチリ軍にとっては補給の前線輸送も問題になります。補給を前線へ運ぶのに苦労するゲームと言うとWW2の北アフリカ戦線が思い浮かびますが、それに似たテイストがあります。しかも、海上輸送は前述したようにタイムラグがあり、制海権の問題を抱えるのです。

結論

WW2の電撃戦ゲームを見慣れた人には、ともすれば動きが鈍く退屈なゲームに見えると思います。しかし、それは欠点ではなく「19世紀の戦争と言うのはそういうものだったのだ」と思います。太平洋戦争特有の細長い戦場、制海権を巡る海戦、補給を前線に送り込む兵站問題などがコンパクトな中に収まっていて良いゲームデザインだと思います。
ロメロ作品は、「グエアラアムエルテ」の後はヒットがなく、「三国同盟戦争」、「ホングリエ」とガッカリでした。本作は、久しぶりのヒットになりました。これで、積読になっている「パルチザン」もやってみようかと思うようになりましたし、予告ばかりで一向に出ない「ウォーター・オブ・オブリビオン」もまた待ち遠しくなりました。