タフの方舟の後半。
ところで、二分冊の二冊目の惹句として「完結編」というのは大仰だと思うのだがどうだろうか? 全体にこのシリーズの惹句、あとがきには、肯けないセンスのところが多い‥(^_^; しかし、内容的には非常に面白く是非とも多くの人にマーティンの職人芸を見て欲しいと思う。
1に比べると全体としてはやや落ちるだろうか。シリーズの最初期作「魔獣売ります」は、非常に面白い。この作品あたりを見ると、「あこぎ」という言葉が多少しっくりと来る。そういう意味では、1のときは「良心的」という自称がむしろ適切と思う作品が多かったように思う。また、最後の「天の果実」を見ても決断の重責を担うという意味では、倣岸というよりは、やはり良心的なのだと思う。全体として見て「宇宙一あこぎな商人」という惹句も同意できないものの一つかも知れない。
話しがそれたが、「魔獣売ります」がヴァンスを意識して書いたというのはなるほどなと思う。エキゾチックな異世界を、エキゾチックな音感の単語セレクションで書かせたらヴァンスほど魅力的な書き手はいない。職人芸に定評のあるマーティンが、「ああいうのを書いてやろう」と挑戦するのも肯ける。そして、マーティンの結論が「ヴァンスのように書けるのは結局ヴァンスだけ」というのも肯ける。ただ、だからと言って本編の価値が下がるわけではなく、マーティンらしい傑作だと思う。「サンドキングス」もそうだが異形の生物を凝視して書くという部分では、マーティンもまた比類のない才能の持ち主だと思う。
「タフ再臨」と「天の果実」はス・ウスラム三部作の2、3本目。だが、問題がどんどん深刻になり、洒落た解決法では済まなくなり深刻な重責に直面していかざるを得なくなるので、エンターテイメントとしてはどんどん楽しみにくくなっている。シリーズ全体として生態系への干渉技術で様々な問題を解決するエンターテイメントSFという傾向が強かったのに、そこからどんどん踏み出さざるを得なくなっている。マーティンはエンターテイメントでもシリアスでも楽に書きこなせる技量があるので、全く破綻したり力不足を感じさせたりはしない。しかし、こちらの心構えというかモードがそこにはないので、深刻な結末を迎えるに当ってどこか消化し切れないような、ハンバーガーを食べに来たらフレンチのフルコースを出されてしまって自分の身なりが気になってしまうような居心地の悪さは覚える。
作者は「氷と炎の歌」で忙しくしているということで、そちらのファンとしては嬉しいコメントだが、このシリーズの新作が出るのも確かに楽しそうな気もする。
長年に渡って順不同で書き継がれたシリーズとは思えないくらい全体のバランスや水準は高く、さすがに職人芸的な書き手としては当代随一のマーティンと思わせてくれた。読んでいて楽しい作品集だった。