☆川の書を読む

bqsfgame2006-03-10

なんと、イアン・ワトスンである。
サンリオSF文庫で刊行された「マーシャン・インカ」と「ヨナ・キット」は発売してすぐに読んだ。イギリスSFでプリーストと並ぶ大物と言われては、ウィンダム、クラーク、オールディス、ディッシュ、プリーストとイギリスSF大好きな向きには見逃せなかった。
ただ、正直に言ってどちらもピンと来なくて、それ以後はワトスンの新刊が出ても見送りになっていた。今回、「SFベスト201」のレビューを読んで、思い直して入手して見た。
1984年の作品で、三部作の頭になる。上記のサンリオの2冊はそれぞれ1977年と1975年だから、少し後の作品と言うことになる。
タイトルそのままの物語で、黒き流れという意思を持つ半生物のような流れによって横断不能になっている川を挟んで隔絶された両岸の世界の片方の岸に住む少女が川の女というギルドに入って成長していく物語である。川の流れに沿った奇妙な異世界。女だけが黒き流れに許されて川を自由に上下できるという奇妙な事実。そして、好奇心と発明で川を渡って向こう岸で未知の文化に殺されてしまう弟。
やがて主人公のヤリーンも若くしてギルドの中で抜擢されて最上流の源流に旅することになり、そこで黒き流れに選ばれて向こう岸へ行くことになる。そこから物語りは展開し、この奇妙な川の世界の根幹を揺るがす事件へと発展していく。さらに、この異世界は実は映画「マトリックス」のような構造になっているという神話が登場、黒き流れは神話の神と対抗する現地生物で川の女たちによって精神を得て変態進化を遂げようとしているという奇想天外な話しに。かくてワトスンらしくなってくるのだが、300ページを越す本書でありながら、まだまだこれから謎解きが‥というところで終わってしまう。
これは三部作の次を読まねばなるまいて‥という展開。
ただし、単独の作品としても独特の異世界と、その背景のアイデアストーリーで、これ単体でかなり面白く読めた。ワトスンへの評価も改めねばなるまい。