南北戦争:いま一度グラントの評価

bqsfgame2009-01-09

一連の記述の中でグラント将軍に対して厳しい書き方をしてきた。しかし、「戦争に非ず殺人なり」をプレイすると、グラントが戦略的任務の遂行に必要な厳しい決断を責任をもってしたのではないかという感銘を受けるようになる。
劣勢とは言いながら質的に優れている南軍が地形を有効に利用し防御準備を整えて待っているところに、最終的にどこかでは攻撃を掛けなければならない北軍の精神的な重圧はかなりなものがある。そして、その攻撃は様子を見ながら数回実施して見て成果に繋がるというようなものではなく、損害にも関わらず貫徹し続けてこそ成果がやっと見えてくると言う辛く険しい道筋である。
グラントがオーバーランド戦役の見通しについてリンカーン大統領に書き送った手紙によれば、たとえ今年一杯掛かろうともこの戦場で戦い切るのが良い‥と示唆したと言う。グラントは事前に険しい道筋を予想しており、それでも最後まで進み続けることが必要であると判断していたようだ。その結果を我々は知っており、「肉屋」などというありがたくない渾名にも関わらず、彼は間違いなく勝者である。
グラントは後に政治家となり大統領となっていく訳であり、その過程において世論に配慮したのかコールドハーバーでの正面突撃について後悔を口にするようになっている。しかしながら、軍人としての彼の本分に照らして言えば、彼は本当のところは「たとえ味方の損害が敵に倍するものとなろうとも、この攻撃は避けて通れない決断である」と思っていたのではないだろうか。
ちなみにコールドハーバー戦単体での損害については諸説あるが、公約数的なところでは南軍1500の損害に対して北軍の損害は5倍近い7000程度であったと言われる。
オーバーランド戦役全体では、南軍30000に対して、北軍50000程度の損害だったと見られ、北軍は南軍に倍するような損害を贖いながら南へと圧力を掛けて進み続けていたことが分かる。ちなみに、この戦役に投入された兵力は北軍は120000、南軍は60000程度だったと言われ、北軍の損害率は40%程度で南軍の損害率は50%と南軍の方が損害率では被害甚大だった。また、再補充能力という面を加味すれば、この結果はさらに南軍にとって深刻であったということは冒頭にも書いた通りである。
オーバーランド戦役は、決定的な決着が一応は着かなかったと見ることもできる戦いだが、恐らく現場の責任当事者同士、つまりグラントとリーとの間では既に帰趨が決したことが見て取れたのではないか。
東部戦線では、この後はピーターズバーグ包囲戦で事態が膠着し、この膠着状態での大統領選挙はリンカーンにとって深刻な賭けであったに違いない。しかし、シャーマンのアトランタ攻略という大きな戦果が西部戦線でもたらされ、リンカーンは再選された。
そして、シャーマンがさらに転回してグラントとの合流を目指すに至って、もはや勝負はあった。アポマトックス戦役は、ボビー・リーにとって投げ場を求めての形作りであり、それによって政治的に起死回生の意義ある成果を作り出そうというものではもはやなかったのではないだろうか。
「戦争に非ず殺人なり」は、非常に良いゲームである。
 それはコールドハーバー戦という題材から来る第一印象を良い方に期待を裏切っている。マップのアートワークは機能的ではないが美麗である。ユニットはサイズが大きく扱いやすく、ユニット総数が少ないのに加えて集団運用するシステムなので非常にプレイ負荷が軽い。特にセットアップの手間が軽いのは特筆に値すると思う。「やりたい」と思ってから、実際のプレイに入るまでのハードルが低いのは、「やる気」が冷めなくて意外に重要なファクターではないかと思う。一戦終わってから、「ではもう一戦」と思わせ、またそれが現実的に可能であるという点でも優れている。
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