☆都市を読む

シマック再読シリーズ、その2です。

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シマックの代表作であり、筆者が中学時代にSFを読み始めた頃には、SFファンの必読書のように言われていました。スタージョンの「人間以上」とか、チャペックの「山椒魚戦争」とか、ステープルトンの「オッドジョン」あたりと同じヴェクトルで括られていた記憶があります。

簡単に言えば、遠い遠い未来に人類が消えた地球で、文明を維持している犬たちが夜ごとの伝承として人間がいた時代のことを語り継いでいます。その伝承を研究して一冊の成書に纏めたものだという設定です。

リーダビリティは良くありません。

途中からは人間が出てこなくなってしまいますし、人間に対する批判的な視点が透徹しています。時代がどんどんスキップしていくので登場人物の連続性はなく、物語として間に何が起こったのかは行間を読み取るようになっています。すごくハードルが高い本です。

それでも国際幻想文学賞受賞は伊達ではありません。

エピソード1が「都市」で、自家用ジェットの普及で距離が克服されて都市に集まって暮らす文明が崩壊する様子を描いています。

エピソード2は人類が太陽系に拡散した時代ですが、意外なことに都市で暮らしていた人類は広場恐怖症を発症して晩年になると外出できなくなってしまうものが続出します。主人公は他惑星の原住民の脳出術のために出発しようとしてできずに死なせてしまいます。

エピソード3はミュータントが登場する時代です。広い地球に分散して済む人々を調査する人口調査員の視点で、優位な能力を持ち既存人類に対して冷徹な態度で臨むミュータントと出会います。

エピソード4から5は木星探査の話しです。そこでは人類は逆テラフォーミングして違う生命形態に変換されて探検に出ます。そして、何人送り込んでも誰も帰ってきません。理由は変換されて暮らす木星がパラダイスだからです。遥かに長命で、広大な大地が待っており、それを人々に知らせるべきかどうかで関係者は苦悩します。しかし、最終的に多くの人間は木星人になる道を選びます。そして、主人公は犬を改造して犬に言語を与え、その手になるべき補助ロボットたちを残していきます。

エピソード6は、そんな時代にも僅かに地球に残った人間が、次の時代に誰も引き継がれないことを知りつつ様々な研究に打ち込む様子です。作者は、この研究を「道楽」というエピソードタイトルで呼びます。その通りなのですが、あまりにも苛烈な評価ではあります。

エピソード7は、犬たちが地球を支配する時代です。そんな時代に、人類は原始人化して平和に暮らしています。ところが、その一人が、またしても弓矢を発明しています。かつての人類の歴史を記憶しているロボットは、再び愚行の輪が開かれたことに絶望します。

エピソード8は、犬たちの文明が他の生き物の命を奪うことを禁止し、その結果、生物数爆発が起きてしまった時代です。犬たちはこれを解決するために連続した異次元への移住分散を実施しました。

風景こそ人口爆発が解消してからは牧歌的なのですが、それにも関わらず現代文明への極めて辛口の批判が随所にあふれており、読書感は非常に深刻です。今回、40年ぶりに読みましたが、三回目があるかどうかは自信がありません。

シマック再読と言うと、後は「小鬼の居留地」か「人狼原理」でしょうか。そこまで無理して読まなくても良いかなという気もします。

新刊がいろいろ溜まってきたので、そちらに移動予定です。