○終末曲面を読む(半分)

bqsfgame2017-09-18

山田正紀の初期短編集。講談社文庫から70年代末に出版された。
「闇よ集え」は、貧困層の都市の若者が暴徒化し、東京はそのまま立入り禁止区域として閉鎖され、彼らが支配する別空間に。さらに、彼らは人間ならぬものに進化しつつあると言う。そこに特殊任務を負って潜入する主人公。途中であった美人ジャーナリストを彼らへの土産に持参する。この土産にされた美人ジャーナリストが輪姦される描写が、当時高校生だったので非常にインパクトが強かった記憶がある。今読むと大したことはないのだが、年齢のせいというより菊池秀行あたりを越えて、そういう描写に対する許容度が世の中で変わってしまったのだろうと言う気がする。
「燻煙肉の中の鉄」は、殺伐とした文明荒廃社会を舞台に、人肉食が当たり前になっている状況での復讐譚。カニバリズム描写の方が輪姦描写よりマイルドに感じられるのは、今にして思うと不思議。
「贖罪の惑星」。どこか他にもありそうなタイトル。過去の遺産である石油を大量消費した人類が、贖罪のため生きながら石油化する奇病に襲われる破滅社会。バラードの「結晶世界」と非常に近いテイスト。結晶世界が無機的で美麗でさえあるのに、こちらは有機的でネバネバなのが対照的。
「終末曲面」は、人口密度が臨界点に達して大量間引きが必要になった日本で、臨界点を予防するための研究をしている研究者の変調を妻の視点から描く。山田正紀が「宇宙塵」に発表したデビュー作だったと記憶しているが、本書の暴力描写の中にあっては、むしろ爽やかささえ感じるのは異常と言わざるを得ない。だが、汚い部分に踏み込まずに死をさらりと描いてしまっていることに対する反省が、本書の他の作品なのかも知れない。
全体に非常に後味の悪い短編集であるが、それでも山田正紀初期作品集としての価値は間違いない。山田正紀ファンで読んでいないなら、探してでも読むべき。