空母アークロイヤル特集を読む

ミリタリークラシックス69号です。

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第2特集が「アークロイヤル」です。イギリス空母は珍しいですね。

日本でウォーゲームをやっていると、WW2の海戦では航空母艦の有効性が実証され、空母をもって空母を叩く空母決戦が重要だったという認識を持っています。

しかし、これは太平洋戦線の特殊事情で、欧州戦域ではドイツ、イタリアに実質的に有力な航空母艦がなかったことから空母決戦なるものはありませんでした。

しかし、島国であり、生命線である物資の輸入を海路に頼っていたイギリスは、WW1から航空母艦保有しており、その運用実績を踏まえてWW2に向けて空母を建艦しました。

WW2への参戦段階でイギリスが保有していた主力空母は、グローリアス、カレイジャス、フューリアスの3艦でした(他に数艦あり)。これらの艦の戦間期の訓練実績を踏まえて1938年に竣工したのがアークロイヤルでした。ですので、参戦時点ではピカピカの最新鋭空母だったことになります。

しかし、欧州戦線では華やかな空母戦がなかったこともあって、どういう性能の船だったか寡聞にして知りませんでした。

今回の特集を見て二つ思った点をまとめておきます。

1:ドイツ電撃戦の成功からバトルオブブリテン開始を受けて、イギリスの航空機産業は「バトルオブブリテンを戦う制空戦闘機生産が最優先」。言い換えれば艦載機の開発や量産は優先順位が一番下だった。

2:イギリス海軍は来るべき時代の空母に多くのリクエストを持っていた。他方、アークロイヤルワシントン条約の空母の残枠で作る必要があったため、それによる仕様制限が厳しかった。

そんな事情があって、欧州諸国の中では唯一ちゃんとした航空母艦を作れる素地があったにも関わらず、出来上がったものにはいろいろと問題が生じました。

特に艦載機の貧弱さはビックリします。

RAFアークロイヤルへのシーハリケーンシーファイアの提供を拒否したため、艦載戦闘機は元々は観測機であるスクア爆撃機を積んでいます。とは言え、敵の艦載戦闘機と戦う必要がなかったこともあり、英軍で最初の敵機撃墜を記録し、また爆撃任務でも成果を挙げています。巡り合わせとは言え、健闘したと言えましょう。

雷撃機は、以前にどこかで書きましたが、イギリスでは終戦に至るまで複葉機ソードフィッシュが主力です。今回、アークロイヤルの甲板昇降機の寸法を見て気づいたのですが、複葉機なのに折り畳み翼なのですね。

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ちなみにフューリアスには41年6月からシーハリケーンが積まれていますから、アークロイヤルも少し艦齢が長ければシーハリケーンを積む日が来たかも知れません。設計時の仕様では5tまでの艦載機を運用できたというので、実現できたようです。

アークロイヤルは全通式の一段飛行甲板ですが、格納庫は二層だそうです。これは、来るべき空母決戦に備えて運用航空兵力を大きくとった結果だそうです。それは良いのですが、前述2の都合があったので、甲板と二層の格納庫の間の昇降機を二段組みにしたと言います。ですから、下層格納庫から甲板へと機体を移動するには、昇降機下段に載せて上層格納庫へ移動して一旦引き出し、それから昇降機上段に乗せ換えて移動します。理屈の上では機能を満たしている訳ですが、「緊急出撃の時間が何よりも貴重な時にそんな悠長なことをせねばならぬ」航空母艦が頼りになるとは思えません。実際、後の空母設計では採用されていませんし、アークロイヤルを大改修する機会があれば改造の筆頭項目と言われていたそうです。

また、WW2のイギリス艦隊と言うと、Uボートの存在を抜きに語れません。航空母艦による対潜哨戒、対潜駆逐任務は、当初想定に入っていました。しかし、太平洋の航空母艦の運用を見たイギリスは、艦隊型空母は艦隊決戦に投入しなければ勿体ないと考えていたようで(どこの国との?)、カレイジャスがU29に撃沈されるに至って対潜任務から航空母艦を撤収する決断をしたそうです。

アークロイヤルジブラルタルでの作戦行動でU81の雷撃を受けて沈んでしまいます。この時の顛末を見ると、被雷により電源喪失したことが一連のトラブルの引鉄になったとのこと。艦内連絡伝令を走らせねばならぬことが情報把握の遅れを生み、意思決定の間違いを生み、結果として沈まなくて済んだかも知れない船を沈めています。福島原発事故を連想させました。まぁ、後知恵なのですが。