☆球状閃電を読む

 図書館です。

 日本語版は「三体ゼロ」となっていますが、これは少し無理筋。訳者解説で仕掛け人の大森さんが書いていますが、ご本人も半分冗談で言ったらしいのです。が、食いついた早川書房が原作者に打診して意外にもOKが出てそうなったそうです。

 でも、大森さん自身も無理筋を自覚されていてウェイボーで中国ファンの反応をチェックしたと言いますから、かなり自信がなかったようです。

 一部の登場人物(丁儀)は共通していますし、一部のガジェットは確かに三体へと繋がる要素を含んでいます。しかし、その関係性は非常に薄く、これを読むのに三体を読んでいる必要も、三体を読む前に本書を読む必要も、ほぼほぼありません。

 タイトルの通り、球電の話しです。

 以下、ネタバレです。

 

 主人公は球電現象で両親を亡くしてから、その現象の研究に捉えられてしまい気象学を専攻します。しかし、球電の真の姿を把握するには物理学の最先端を学ぶ必要があると判って転科。

 球電現象の研究をしていくに連れ、それを新概念軍事兵器として実用化しようとする軍の関係者と繋がることになり、新概念軍事兵器研究科のヒロインと会います。このヒロインが極度の兵器オタクで、ちょっと怖い!

 やがて、球電が稲妻のように大気現象から発生してくるものではないということが判ってきて研究は行き詰ります。

 そこで登場するのが物理学の俊英、丁儀です。

 彼は球電が発生するのではなく、もともと普遍的に存在し、励起された時だけ発光して目視で観測されるという斬新な仮説を提示します。

 この仮説は実証され、球電とは、これすなわちバスケットボールサイズのマクロ電子であり、励起されると発光して見えるようになり、励起エネルギーを放出することによって消失することが判ってきます。

 この時にエネルギーを放出する相手を選択する性質があり、その選択性によっては非常に強力な武器になることが見出されていきます。生物だけを焼く球電、半導体回路を焼く球電などです。

 選択性のある球電を有効在庫を持てるほど確保して武器化の目途が経ったタイミングで、原子力発電所を占拠した自然回帰主義者のテロが発生し、球電兵器は出動を命じられます。発電所を見学に来ていた小学生たちを捕虜として立て籠もるテロリストたちに対して対人選択性球電を使用する命令が下されます。残念ながら子供を選択的に適用外にすることまではできず、テロリストと人質の子供たち全員を灰にして作戦は成功理(?)に終結します。

 ここで終わっても良いのではと思う程の冷血なクライマックスですが、物語は続きます。

 丁儀は、マクロ電子があるならマクロ陽子やマクロ中性子もあるはずだと想定し、電子の位置から原子核の位置を推定することを試みます。最終的に彼の恩師の亡くなった奥さんの墓碑銘に必要な方程式が書かれているのを見つけ出します(恩師の奥さんは無名学者でしたが、実はスゴイ人だったのです)。

 そして見つけられたマクロ原子核同士を衝突させれば、マクロ核融合ができるということになり、これこそ最終兵器だと関係者は気色ばみます。しかし、その威力が大きすぎて地球を滅ぼしてしまうので、実用化できないという結論が出てチームは解散となります。

 しかし、兵器オタクのヒロインは、どうしてもこの兵器の威力を一度見てみる誘惑から逃れられず実験準備を進めます。

 最後はヒロインの実父(総司令官)が実験場に対して球電兵器での攻撃を命じてヒロインは自身が開発した球電兵器によりこの世から姿を消します。

 しかし、球電兵器により攻撃されて消えた人々は量子化されて確率雲化しただけで、消えてなくなったのではないという可能性が議論され、主人公はヒロインの声や彼女の香水の香りが時々するような気がしてなりません‥。

 

 と言うお話です。

 スゴく冷血な部分があって、特にヒロインの新兵器への妄念はすごいです。なぜ彼女がそうなってしまったのかは、ヴェトナム戦争ソビエトの作った新型生物兵器により彼女の母親が殺されたからだと言うのが断片的に織り込まれていて、決して彼女が冷血鬼ではないというフォローもされていますが、そこは読んでのお楽しみとしましょう。

 三体の一環として読む必要はないと思いますが、独立した長編として非常に良く出来ているのでお薦めの本です。

 ちなみに受賞できませんでしたが本年の星雲賞、海外長編部門候補作の一つです。