○復活の日を読む

小松左京です。

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先日、WOWOWで映画を視聴したことで、思い立って読みました。

初読は1970年頃のことだと思いますから半世紀振りの二読目となります。

改めて読み直すと、多少、記憶にあったイメージとズレがありました。

ウィルスのメカニズムについて、かなり凝った説明が用意されていて、多分、50年前には良く判らなくて読み流したのだと思います。

 

p174

「癌の研究が、どんな生物学作戦に役立つのかね?」(中略)

核酸兵器ですよ」(中略)

核酸、ウィルスの芯になってる遺伝物質は、単なる化学物質で、結晶までつくるくせに、こいつを細菌に感染させると、ウィルス性疾患を起こし、どしどし新しい生きたウィルスをつくり出すことは、古くから知られてます。

つまり核酸だけでも充分に生物兵器の役をするわけです。

というのは、ウィルスというやつは、生きた状態で保存するのはむずかしく、生細胞の中で増殖してないとすぐ死んじゃいますからね。

化学的毒物は、致死量を必要とし、しかも効果は持続しません。

これにひきかえ核酸というやつは、数オンスのサラサラした結晶が、もし生物体に感染した場合、成体細胞自身が病気にかかって破壊されながら、同時に無限に病原ウィルスを増殖させて行くのです。

つまり、核酸とは、自己増殖する化学的毒物です」

p176

「彼はライゼナウのもとで、癌染色体の研究をやっていたんですが、その研究を核酸兵器に応用したんです」(中略)

核酸兵器のただ一つの弱みは、結局そいつが、もとは水に溶かせば正体のつかめない酸ではあるが、人体感染すると、もとのウィルスを作り出しちまうってことです」(中略)

「ウィルスという生体になってしまえば、これは大体性質は良く知られているし、組織培養すれば電子顕微鏡で見ることができます。」

p178

「カールスキイは、病原体、つまり生体ウィルスの形態を経ずに、増殖して行く、純粋な核酸兵器の可能性を思いついたのです。」

 

と言うことで、何故に本作のBC兵器が世界中の努力にもかかわらず人類滅亡に至るまで有効な対策ができなかったのかのカラクリが明らかにされています。

新聞評で「本作がインフルエンザ類似の病原体が世界を滅ぼす可能性を予見していた」と書いてあるのを見掛けました。しかし、上述のカラクリですので、評者は正しく読んでいません。

本作ではインフルエンザ類似の病気が流行しますが、実際に人類を滅ぼしたのは、その背後に隠れて発見されなかった核酸兵器の方なのです。とは言え、かなり丁寧に読まないと、判らない部分なので、大勢に影響はありませんが。

また、この核酸兵器は純粋な開発物ではなく、宇宙から降ってきたウィルスから変性して作り上げたものです。そういう意味では、メカニズムの部分は宇宙由来、それを対人類向けの最強兵器にデベロップしたのが人間の所業ということになっています。

 

ところで、「日本沈没」でも万難を排して日本列島を沈めた小松先生は、本作後半で出てくる地震についても、かなり詳細な議論をしています。

 

p334

地震学といっても、私のは、動態的地殻構造の研究が主で、地表の予報は専門ではありません。偶然、いくつかの異なった現象の間に、ある函数関係を導入すると、それが非常に高い確度で地震予知に役立つことを発見し‥」

とヨシズミは自身の研究について語り始めます。

 

小松先生は知の巨人と呼ぶべき存在でしたが、本作はその実力を如何なく発揮して万難を排して人類を滅亡させ、南極の人々に未来を託した力作です。

いまの時代だったら、1000ページを越えるような大作にして、ハードカヴァーの三部作で売りだすべきと編集部が助言しそうな中身なのですが、小松先生も早川書房もなんと欲のなかったことか。