大富豪同心、ついに20巻です。もちろん図書館。
海嘯という単語は知っていますが意味が良く判っておらず辞書を引きました。そうか、三角波のことなのですか。
今回は大阪から江戸へと新綿を届ける新綿番船の競争がテーマです。
この番船競争を廻って、腕の良い沖船頭を廻る殺人事件が発生し、卯之吉は事件を解くには大阪へ行く必要があると決断し大阪へ。折しも今年の新綿を江戸へ届ける番船競争が大阪をスタートするタイミングと重なり、好奇心旺盛な卯之吉は巨船、高砂丸に乗ることになります。
意外なことに卯之吉は船乗りとしてはかなり活躍します。
p244
「夜通しの見張りとは、ご苦労なことをしてくださる」
「只乗りは義理が悪い、何かの役に立ちたいいうお志ですやろ。お大臣のボンボンらしゅうもない律義者や。三国屋さんも、エエ跡取りはんをお持ちになったもんや」
卯之吉は完全な夜型人間なので、夜中に起きていることを苦にしない。おまけに強烈な好奇心の持ち主だ。
p247
遭難でいちばん恐ろしいのは、じつは悪天候ではない。船乗りたちに絶望が蔓延することによる仕事の放棄だ。
真っ暗な船底で、滝のように流れ込んでくる水を汲み出すことに追われていれば、どんなに屈強な男でも心が萎える。絶望感に苛まれてしまう。そうやって船は統制を失っていく。
ところがここでは卯之吉が、まるで祭を楽しむかのように賑々しく振る舞っている。水汲みを満身で楽しんでいる。水主たちにまでその高揚感が伝わった。
親仁は、
(この若旦さんは、ほんまにたいしたお人や)と感動した。
p289
「ちょいお待ちを」
卯之吉が手を伸ばして制した。それから、帆桁の傾いた帆を見上げた。
「和蘭国の船の三角帆は、風に逆らって進むと聞きましたよ。この船の今の様子は和蘭の船に似ていますね。もしかしたら風に逆らって北へ行けるかもしれない」
といった具合に、美鈴や荒海一家の力を借りずに日本一の大船、高砂丸を逆風を突いて浦賀水道に見事に一着でゴールさせてしまうのでありました。