創元で出していた大森さんの年間SF傑作選が、いつの間にやら竹書房に移動していました。堀晃さんが入っているこちらを先ず購入して見ました。図書館に入らないのですよね。ピンスカーはあるので、竹書房がダメと言う話しではないはずなのですが。
正直に言って、拙もアンソロジストとしての大森さんをあまり好きではないのですが、SF作家クラブの入会動議が可決されなかったという前歴もあり敵の多い人であることは間違いないようです。
しかし、本書は非常に面白く読むことができました。
「この小説の誕生」、芥川賞作家となった円城の「群像」掲載作品。ここらへんまで目配りできる所が大森さんの強みだと思います。
「クランツマンの秘仏」、SFマガジンで読んだので再読。奇想論文というサブジャンルを切り拓いたという意味で収録されて当然でしょう。
「人間たちの話し」、寡聞にして柞刈先生を存じ上げませんでした。
「馬鹿な奴から死んでいく」、再開された異形コレクションからです。アフターホローコーストのバイオレンス系。森下一仁の「ユウ、届かぬ叫び」を思い出しました。これは傑作だと思います。このテーマが個人的に好きなのです。
「本の背骨が最後に残る」、これも異形コレクション。焚書は実在した危機でありますが、それに対して琵琶法師のように本を口伝で伝えるという世界。しかし、版違いで齟齬があるのを対決して正邪を決めるというのは新発想。タイトルの通りの恐ろしい結末が待っています。集中のベストかと思います。
「どんでんを返却する」、どんでん返しと言う言葉を材に取ったショートショート。
「全てのアイドルが老いない世界」、アイドルと言うのはファンの精気を吸って老いない別種族だというお話し。ある意味で、異形コレクションものより怖い。
「あれは真珠というものかしら」、これを当該年のSF短編のベストとする大森さんの感性が良く判りませんでした。
「それでもわたしは永遠に働きたい」、働き方改革を逆手に取った朗働を題材にした一編。楽しく働く世界が、それもディストピアという。
「いつかたったひとつの最高のかばんで」、地味な派遣OLが生涯掛かって集めたカバンコレクションの顛末。ある意味でコレクターという人種に対する警告の書なのかも知れません。
「循環」、堀晃先生の私小説です。眉村先生の「傾いた地平線」を思い出しました。大阪と言う所も、自身が務めたメーカーに関する私小説だという所も共通しています。大阪の街にある中小企業の風情って、「舞い上がれ」もそうでしたがいいですよね。