☆最後の戦闘航海を読む

bqsfgame2005-06-18

谷甲州の航空宇宙軍史、1991年。
戦後のガニメデ周辺の機雷掃海に当っていた掃海艇に木星小惑星ヒマリアの研究施設への調査任務が命じられた。敗戦直前にデータを廃棄した外惑星各基地の中で、そこではデータが生きているらしい‥。軍事データ、重力研究データなどの思惑に加えて、そこにあるもう一つの秘密基地で行われていた生体実験についての思惑が様々に渦巻く。
そして、この機雷に囲まれた小惑星から敗戦時に離脱しようとした二つの基地を巡るドラマと、そこにいるはずのない生存者。
掃海艇と言うのは戦後に危険を背負って最後まで活動する因果な存在だが、これに生体実験の事実を抹消、開示しようとする思惑が絡んで決して長くはないのだが重厚なストーリーが展開される。航空宇宙軍史はいつも重みのあるメッセージを伝えてくれるが、今回はまたひとしお。傑作という言葉は少しチャラチャラして聞こえて本作にふさわしくない気がするが、読み継がれて欲しい一冊だと思う。