×啓示空間を読む

bqsfgame2005-11-08

あまりに分厚い強烈な存在感の新刊。行きつけの図書館に早速入ったので借りてきてみた。
率直に言って、これ自体は完成度が低く、傑作とはとても呼べないと思った。作者の第一長編であることを考えれば、随所に魅力的な部分があり、今後を大いに期待させるかも知れない。しかし、そうした今後の期待という未知数の要素を別にして、本作品単体を評価するなら合格点に届くかどうかというくらいだと思う。
雑駁なイメージだが、エドモンド・ハミルトン先生にタイムマシンで現代に来てもらってブルース・スターリングやJ・P・ホーガンを読ませてから「今のSFはこういうのですから、こういうのを書いてみてもらえませんか?」といって最新の天文学の記事を渡すとこんな風になるかも知れない。
作者は天文学者ということでハードSFだという触れ込みなのだが、科学的なロジックのコンシステンシーがストーリーの主軸を担ったり、読み手の知的好奇心を満たしてくれたりする訳ではない。その意味では「ハードSF」をどう定義するかにもよるが、個人的な意見としては本作品は「ハードSF」と銘打つべきものではないように思う。
その一方で小説としての魅力も今一つ。第一長編でこの長さを書ききったのは買うが、最初の200ページくらいは3元中継でカットバックが入っていたりして非常にわかりにくく不親切な気がする。最近の速読トレーニングで一気に読み進む勢いがあったから突破できたが、そうでなかったら最初で頓挫していたと思う。
魅力的な仕掛けは確かにあるのだが、その提示の仕方がスムーズでなく、魅せ方が良くないので非常に勿体ない気がする。
とは言え、一昔前のヴォルコシガン年代記あたりよりは面白いと思うので、この作者の次の長編が訳されてきたときに、多少なりとも第一作より上達しているような話しがあったときどうするかは悩ましいところ。
なんにしても1000ページ超の文庫本は文字通りに手に余って非常に読みにくいので、出版社はもう少し考えて欲しいものだ。また、帯の惹句があまりに大げさなのは逆にマイナスだと思うのだがどうだろうか?