☆フィーヴァードリームを読む

bqsfgame2008-03-20

GRRマーティンの1982年の作品。
氷と炎の歌が訳出され始め、いまや日本のウォーゲーマーに一気に大ブレイクした観のあるマーティン。
わたし自身もウォーゲーマーではあるのだが、敢えて言おう。マーティンの最高傑作は「翼人の掟」で次点は「フィーヴァードリーム」だと。
もちろん氷と炎の歌は精密で華麗で巨大な前人未到の構築物として邁進し続けている。今のレベルを保って完結することができれば世紀の大河戦記ファンタジーとなるに違いない。
しかし、その氷と炎の歌をもってしてさえ、個人的な好みとしては「翼人の掟」や、「ファーヴァードリーム」の魅力が上回ると見る。
改めて復習だが、「翼人の掟」は、翼を持って飛ぶことができるとはどういうことなのかを肌で感じさせる作品であり、その人にとって飛べなくなるということがどれほどの重みを持つのかを痛感させる作品であり、それでもその人は人生を全うしていかなければならないということを描き出した沈痛で重厚な物語である。残念ながら絶版になって久しく古書店でも見かけることは少なく、アマゾンの古本ではビックリするような値段で取引されている。しかし、そのビックリするような値段には故なしとしない。
さて、本書であるが、本書を「翼人の掟」と並べることに関しては異論が多いのではないかと思う。分類上は本書はホラーに分類され、その中でも吸血鬼物である。それもかなりの新規軸である。しかしながら、個人的な意見として誤解曲解省みずに言ってしまえば、本書は蒸気外輪船乗りとして生きるとはどういうことなのかを肌で感じさせ、その人にとって船を失うというのがどれほどの重みを持つのかを痛感させる作品であり、それでもその人は人生を全うしていかなければならないということを描き出した沈痛で重厚な物語である。翼が蒸気外輪船に変わったほかは、基本的には「翼人の掟」同じテイストを持っていると思う。
もちろん本題である吸血鬼の物語はそれはそれで読み応えがあり、結果として解説にもある通り種族を越えた友情の物語でもある。
さらに言えば本書は南北戦争前夜から直後までのミシシッピ川の物語としても読むことができ、南北戦争の西部のマップを広げながら読めば地名の位置関係や、それぞれの川の個性も踏まえられていて興趣をそそる。
本書はそのように多様な側面を持ちながら、そのいずれの面に置いても高い完成度を持ち、それぞれの側面が他の側面を阻害していないという信じられないバランスを保っている。
小説技術としての完成度だけなら翼人の掟をも上回っているとさえ思う。後は私的な好みの問題と出遭ったタイミングの問題で、わたしは翼人の掟を取るが、本書をマーティンのベストとする人がいても少しも意外ではない。こんな凄い本だとは思わなかった。今まで読まずにいたことを真に後悔している。
ミシシッピクイーンでもプレイしようかしら?