☆第17期囲碁名人戦全記録を読む

bqsfgame2008-06-26

1992年の囲碁名人戦
名人:小林光一はこの期を防衛して五連覇を達成した。対する挑戦者は同じ木谷門の兄弟子にして名人戦男の異名を取る大竹英雄
今回の入院に当って買ったまま積読になっていた囲碁名人戦の記録のどこかに手を付けようかと悩んだが、一番おもしろそうなのがこの期だった。
大竹挑戦者は実績から見て超一流の芸の持主であることは明らかなのだが、正直に言って素人目には何処が強いのかなかなか理解できなかった。その大竹挑戦者の芸が存分に発揮され、小林名人を徳俵まで押し込んだのが、この17期だったように思う。
第7局の観戦記に、特に印象的な表現があるので引用しておこう。
「前略
 目的がはっきりしているから小林の一手一手は私たちが見ていても分かりやすい。
 中略
 反対に大竹の一手一手は分かりにくい。
 中略
 思うに小林流のはっきりした手に対し、大竹ははっきりしない手で戦いを挑んでいるのではないか。信念や世界観の違いといってもいい。価値がはっきりしなくても、碁にはいい手がいくらでもあるんだと教えてくれているような気がする」
なるほどと思わされる。7局の棋譜を全て読むと、なるほど大竹流というのが少しだが見えて来たような気がする。形成判断に明るく、手厚く打ちながらも地合で大きく引き離されずに付いていく。そして、形勢が良ければそのまま手厚くゴールイン。形勢が悪ければ、抜群に手が見えることを利用して手厚く打ったことを背景に一仕事してきっちり少しだけ逆転してゴールイン。無駄に大勝することをせず、少しだけ、しかし手厚く勝つことを良しとする高尚な芸風だ。