×夜更けのエントロピーを読む

bqsfgame2008-06-25

河出の奇想コレクション
最初の配本がこのシモンズだった。そうか第一回配本に持って来たいほどシモンズのバリューは今ではあるのか‥。
正直に言って奇想コレクションはこれまでハズレがなく、本書には大いに期待していた。ついにシモンズの魅力を理解させてくれる本に出逢えるかもという期待だ。
結論から言うと期待は外れた。
決してつまらない訳ではない。異色のホラー作家の短編集と言う意味では、かなりバリューはあると思う。ただ、良い意味でも悪い意味でもそれ以上のものではないように思う。
本書を読んで感じたことは、
1)シモンズは基本的にはモダンホラーの系譜に位置しており、ジャンルSFの作家ではない
2)シモンズはモダンホラーの書き手として筆力があり、たいしたことのないワンショットのおぞましいシーンを丁寧に書き込んで中編にしてしまうと言う力業師である
というようなところだろうか。
特に2は個人的には趣味の合わないこと深刻だった。吸血鬼にしてもゾンビにしても書き古されたおぞましいものだと思っていたのだが、シモンズの手に掛かるとまた新しいおぞましさを持ってなまなましく行間に恐怖を撒き散らすようになる。これが筆力と言うものだと言われればその通りなのだが、怖いものが好きではないわたしにとっては次から次へとどの短編でもおぞましいものが描かれるのは辛かった。
もう一つ、かなり社会性が強く、社会的な問題について正視し難いものを取り上げて組み合わせたりしているので、その意味でも読んでいて辛い気がする。
「フェッセンデンの宇宙」のときには、ハミルトンのほかの作品を是非とも読まねばという気持ちにさせられたが、本書ではシモンズの他の作品を是非とも避けなくてはという気持ちになる。そのくらい読んでいて辛い短編集だった。そういう筋がお好みの方にはお薦めだろう。帯にあるスティーブン・キングの「わたしはシモンズを畏怖する」というのがナルホドなと思わせる。モダンホラーの大御所をして震撼せしめる「おぞましいもの」の生々しい書き手ではある。